1942年(昭和17年)・冬
<年が明けてからも 日本軍の連戦連勝が伝えられ 人々の戦意は 高揚していました。>
玄関
「一体 どういうおつもり?」
「そっちこそ どういうつもりさ。」
「まあ お下品。」
「下品とは 何よ。 ええ? 上品ぶってりゃ いいってもんじゃないわよ!」
「そうよ そのとおりよ!」
花子「かよ… どうしたの?」
かよ「あ… お姉やん。」
花子「今日 お店は?」
かよ「ももに頼んできた。 ごめん ちょっと今 忙しいの。」
「いいんですか? こんな無礼をお許しになって!」
<おや? いつか 吉原から 蓮子のうちへ逃げてきた 雪乃さんじゃありませんか。>
「あなたたち どきなさい。 ここは 私たちが ご出征される方を お見送りする場所です。」
雪乃「どくもんですか。 私たちは お見送りするために 2時間も前から ここで待ってたんです。 ほら。 このとおり 千人針も用意してきたんです。」
「そっちこそ どきなさいよ!」
<このころ 各地の婦人会は 統一されていましたが 山の手の奥様たちと 水商売の女の人たちは 仲がいいとは言えませんでした。>
「皆さん おしろい塗って ご商売なさってる方が お似合いでしてよ。」
「何ですって! バカにしないでよね!」
雪乃「私たちだって 日本の女です お国のために尽くしたいんです。 命をささげて戦って下さる 兵隊さんを思う気持ちは 奥様たちには 負けませんわ。」
女たち「そうよ そうよ!」
「おどきなさいよ!」
「何 言ってるのよ!」
カフェー・タイム
(戦況を伝えるラジオ)
(歓声)
「連戦連勝の祝杯だ! 酒 どんどん持ってきてくれ!」
もも「はい!」
(歓声)
花子「もも 忙しそうね。 醍醐さんと待ち合わせしたんだけど…。」
もも「お姉やん いいとこに来てくれた。」
客「煮物 まだ? 早くしてよ」
もも「ただいま 援軍が来ましたから。 お姉やん お願い。」
花子「は… はい。」
醍醐「はなさん ごきげんよう。」
花子「ああ 醍醐さん。 ごめんなさい ちょっと お掛けになってて。」
もも「ありがとうございました。」
花子「醍醐さん お待たせしてごめんなさい。」
醍醐「ううん。 商売繁盛で何よりね。 今日は かよさんは?」
花子「ああ 婦人会で忙しいみたいなの。」
もも「すごく熱心にやってるんです。」
町中
一同「万歳! 万歳!」