花子「何だか不思議。 明日んなったら 『今 帰ったぞ』って おとうが また ひょっこり 帰ってきそうな気がするのに。 帰ってこんかな…。」
ふじ「今っ頃 あの世で おじぃやんや歩と 楽しくやってるら。」
花子「おじぃやんとおとう けんかしてないといいけどね。」
(笑い声)
花子「ねえ おかあ…。 東京で一緒に暮らさない?」
ふじ「てっ。」
花子「田んぼや畑は 兄やんたちに任して これからは おかあのやりてえこん やったらいいさ。 歌舞伎 見に行ったり 歌謡曲 聴きに行ったり。 どうかな?」
ふじ「ありがとねえ はな。 ふんだけんど やりてえこんなんか おらには ねえだよ。」
花子「おかあ…。」
ふじ「おらのうちゃあ ここじゃん。 おじぃやんや はなたちや ほれに おとうと 長えこん暮らしてきた このうちだけじゃんけ。」
花子「そう…。 分かった。 ねえ おかあ。 ちょっと貸して。 おかあ… きれいだよ。」
ふじ「てっ! 急になにょう言うずら。」
花子「本当よ。」
(笑い声)
花子「きれいだよ。」
宮本家
居間
<愛する息子を戦争で亡くした 蓮子は 涙もかれ果て 何をする気力も失っておりました。>
龍一「ただいま。」
富士子「お帰りなさい お父様。」
龍一「闇市で いいもの買ってきた。 少しだが 砂糖だ。」
富士子「まあ! お母様 お砂糖ですって!」
龍一「こんなものまで見つけたよ。 これは 君に。 また 歌を詠んでくれ。」
村岡家
書斎
花子「(ため息) おとうにも読んでほしかったな…。」