書斎
美里「お母様。 それ 前にも 小鳩書房さんに見せて 断られたんじゃなかったっけ?」
花子「ええ…。 ほかの出版社にも さんざん断られたし 駄目でもともと。」
<6年間 花子は 出版してくれるところを 探し回りましたが いまだに どこも見つかっていないのでした。>
居間
小泉「これは!」
花子「『ANNE of GREEN GABLES』。 『緑の切り妻屋根のアン』です。」
小泉「主人公のアンが魅力的だったので よく覚えています。 ああ… まだ 出版されてなかったんですね。」
花子「ええ。 日本では 知られていない作家だから 皆さん 冒険したがらなくて。」
門倉「『ANNE of GREEN GABLES』?」
小泉「覚えてませんか? 終戦後すぐに 村岡先生から 『アンクル・トム』と一緒に ご提案頂いたものですよ。」
花子「ただ 新しいものでは ないんですよ。 原作が書かれたのは 40年以上も前の話ですし 『風と共に去りぬ』のように ドラマチックな展開もありません。 けど アメリカやカナダでは 大変 人気のある作家なんです。」
小泉「いや~ 僕は 大変面白いと思いました。 どうですか 社長? 今なら 冒険する余裕も あるじゃないですか。」
門倉「本当に そんなに面白いの?」
花子「えっ?」
小泉「社長! ひょっとして 読まずに断ったんですか?」
門倉「いや~… おわびしなきゃいけないですね。 実は 読んでないんですよ。 あのころは 知名度の低い作家に 手を出すほど うちも余裕がなかったんです。 タイトルも パッとしないじゃないですか。 緑の屋根の家に住んでる女の子の 日常を描いた話なんでしょう?」
(戸が開く音)
美里「ひどすぎます! 読みもせずに断っただなんて 許せないわ!」
花子「ちょっと 美里!」
美里「母は この原書 命懸けで翻訳したんですよ! それなのに 読んでない? 本にも母にも失礼です!」
花子「美里。 お客様に何を言うの。」
美里「お母様。 こんな心ない人が やってる出版社に 大切な原稿を…。」
花子「ちょっと! いい加減になさい!」
美里「でも お母様…。」
花子「門倉社長 小泉さん 申し訳ありません。 このように 私のしつけが なっておりませんで…。 美里も謝りなさい。 申し訳ありません。」
小泉「いえ。 お嬢さんが怒るのも無理ないです。 すいません。 社長も何か言って下さい!」
門倉「分かりました。 読みます。 これから読みますから。 原稿をお借りしても?」
花子「ええ もちろん。」
美里「本当に読んで下さいね。」
花子「美里。 よろしくお願い致します。」
門倉「確かに。 お邪魔しました。」
小泉「お邪魔しました。」