花子「ええ。 『切り妻屋根という言葉は 日本人には あまり なじみがありませんよね。 そこで いくつか考えてみました。』
門倉「拝見致します。」
小泉「『夢見る少女』 『窓辺の少女』 『窓辺に倚る少女』。 う~ん… なるほど。 あっ でも アンという主人公の名前は 残した方が いいんじゃないでしょうか? 例えば 『夢見るアン』とか 『窓辺のアン』とか。」
花子「う~ん… アンという名前が入ると 急に 想像の幅が 狭められてしまうような気が しますけど…。」
門倉「それで村岡先生は 『少女』になさりたいんですね。」
花子「ええ。 これは アンだけの物語ではなく 自分の物語でもあるのだと 受け取ってほしいんです。」
小泉「それじゃ 『想像の翼を持つ少女』は どうです?」
門倉「う~ん…。 『グリン・ゲイブルスの少女』は?」
小泉「『島の少女』は?」
門倉「『曲がり角の先の少女』は?」
花子「それでしたら やっぱり 『窓辺に倚る少女』が いいと思うんです。」
小泉「でしたら 『窓辺に倚るアン』というのは…。」
<こんな調子で 決まるのでしょうか?>
夜
英治「そう。 『窓辺に倚る少女』に 決まったのか。」
花子「ええ。」
美里「随分と おとなしやかな題名になったのね。」
花子「えっ?」
英治「いや ロマンチックで なかなかいいよ。」
花子「そうでしょう?」
(電話の呼び鈴)
花子「あ… はいはい。」
廊下
花子「はい もしもし。 村岡でございます。」
門倉『もしもし? 小鳩書房の門倉ですけど。』
花子「門倉社長。 どうなさったんですか?」
門倉『あの… 題名なんですがね。』
花子「はい。」
門倉『小泉が 『赤毛のアン』は どうだろうと言うんですが いかがでしょう?』
花子「はあ? 『赤毛のアン』? あれだけ さんざん話し合って 『窓辺に倚る少女』に 決まったじゃないですか。」
門倉『まあ そうなんですけどね。 『赤毛のアン』と聞いて なかなかいいじゃないかと 僕も思いましてね。』
花子「はあ… でも…。」
小泉『村岡先生。 小泉です。 どうも。 アンは 赤毛を自分の 最大の欠点だと思っていますよね。 でも その欠点こそが アンを魅力的な人物像に 仕立て上げていると 僕は 思うんです。 つまり アンのすばらしい個性です!』
花子「私は 反対です。」
小泉『村岡先生…。』
花子「だって『赤毛のアン』だなんて あまりにも直接的で それこそ 想像の余地がないじゃないですか。」
小泉『そう言わずに 考えて頂けませんか?』
花子「嫌です。 失礼します。 ごきげんよう。」