居間
花子「小泉さんったら 『赤毛のアン』ですって。」
英治「『赤毛のアン』…。」
花子「そうなのよ。 つまらない題でしょう?」
美里「『赤毛のアン』? 『赤毛のアン』…。」
花子「『窓辺に倚る少女』の方が ずっといいわよね?」
美里「そうかしら? 『赤毛のアン』…。 いいじゃない! すばらしいわ。 断然 『赤毛のアン』になさいよ お母様。」
花子「えっ… でも…。」
美里「『赤毛のアン』って いい題よ。 『窓辺に倚る少女』なんて おかしくって。」
英治「そうだな…。 『アン』を読むのは 若い人たちだからね。 美里の感覚の方が 案外 正しいのかもしれないよ。」
花子「う~ん… そうかもしれないけど…。」
美里「『赤毛のアン』にすべきよ。」
廊下
花子「あっ もしもし 門倉社長ですか? 村岡です。 先ほどは 大変失礼致しました。 ええ。 ああ いえ… あの…。 実は… あの… 娘が『赤毛のアン』がいいと言って 譲りませんの。 若い人の感覚に 任せる事にしました。 やはり 『赤毛のアン』にします。」
門倉『そうですか!』
小泉『ありがとうございます!』
花子「どうぞ よろしくお願い致します。 はい。 ええ。」
<こうして 『赤毛のアン』誕生致しました。>
居間
小泉「出来ました。」
夜
花子「はい。」
英治「とうとう出来たね。」
花子「ええ。 はい。 これは 美里へ。」
花子「英治さん。 美里。 諦めずに 今日まで やってこられたのは 2人の支えがあったからよ。 本当にありがとう。」
美里「おめでとう お母様。」
英治「おめでとう。」
庭
英治「この女の子 本当に君みたいで面白いよ。」
花子「スコット先生との約束を果たすのに 13年もかかってしまったわ。 先生にも お見せしたかった。」
<スコット先生は 花子に原書を手渡した数年後 祖国 カナダで亡くなったのです。>
回想
スコット「I have a book to give you.」
花子「『ANNE of GREEN GABLES』。」
花子「『曲がり角を曲がった先に 何があるのかは 分からないの。 でも それは きっと…。 きっと 一番よいものに 違いないと思うの』。
(空襲警報)
(爆撃音)
回想終了
英治「明日 書店に並ぶのが楽しみだね。 どうしたの?」
花子「あ…。 この本 日本の少女たちも 面白いと思ってくれるかしら?」
英治「曲がり角の先は 曲がってみなきゃ分からないよ。」
花子「そうね。」