ふじ「てっ…。」
リン「落ち着いて。」
サダ「それから 私 ずっと待ってたんですけど 寒くなると ぬくもりが恋しくて…。」
はな「ぬ… ぬくもり?」
サダ「ええ。 お嬢さんの前でなんですけど 吉平さんのぬくもりが 恋しくなって こっちに迎えに来ちゃいました。」
ふじ「ほんな話 うちの人から いっさら聞いてねえです。 人違いじゃねえですか? ほんな… うちの人に限って ほんな事…。 絶対に信じられんねえ。」
リン「ほうだよ! 吉平さんは 肝心な時にゃ いっつも うちにいねえし 4年間も 家族ほっぽらして 音沙汰なかったし… いろいろ問題のある 婿殿だけんど!」
はな「おばさん…。」
リン「ふんだけんど! ふじちゃんの事を 裏切るようなこんだけは するはずねえ!」
周造「そうさな。」
サダ「でも 確かに 吉平さんは そう言ったんです。 このくしも 吉平さんがくれました。 『私に よく似合う』って。 『このくしには 俺の気持ちが籠もってる』って。」
リン「ああ…。」
はな「おかあ!」
サダ「それにしても 吉平さん遅いわね。 よっぽど このうち 居心地が悪いのかしら。 そういえば ふじさんの話もしてくれたっけ。」
はな「おとう おかあの事 何て言ってたですか!?」
サダ「違いますよ。 あのふじさん。 甲府から見えるのは 裏富士で 吉平さんの生まれた故郷の静岡から 見えるのが 表富士だって 教えてくれました。 『いつか お前には 表側の富士山を見せてやる』って。」
周造「バカっちょが!」
はな「わあっ!」
周造「こっちが表に決まってるら!」
朝市「周造じぃやん 落ち着いてくりょう。」
周造「帰ってくりょう。 二度と来んでくりょう!」
サダ「また来ます。」
庭
吉平「あれ? サダさん!」
サダ「吉平さん!」
吉平「どうしたんじゃ?」
サダ「どうしたって… はるばる新潟から会いに来たに 決まってるじゃない。」
はな「おとう…。」
サダ「じゃあ 吉平さん また出直すわ。」
吉平「あれ? サダちゃん もう帰るだけ?」
はな「おとう!」
吉平「おお はな。 帰ったぞ。」
はな「『帰ったぞ』じゃねえら!」