醍醐「村岡さん ごきげんよう。」
英治「醍醐さんも来られたんですね。」
醍醐「ご迷惑でしたか?」
英治「いえいえい 大勢の方が楽しいですよ。」
<何だ。 初めから 逢い引きじゃ なかったみたいですね。>
醍醐「私の両親も しばらく ロンドンにいたんですよ。」
郁弥「へえ~。」
はな「郁弥さんは 留学で ロンドンへ?」
郁弥「はい。 最新の印刷術を勉強しに。」
英治「英語は 少しは しゃべれるようになったのか?」
郁弥「まあね!」
郁弥『今日は お目にかかれてうれしいです』
はな『こちらこそ』
郁弥『あなたのことは 兄から色々うかがっています』
はな『どんなうわさか 少し心配です』
郁弥「英語が堪能で 翻訳の才能は すばらしいと。」
英治「そうなんだよ。 彼女の翻訳は バカが読んでも分かる。」
はな「また バカって…。」
郁弥「兄さんは 褒めてるつもりでも その言い方じゃ誤解されるよ。」
醍醐「村岡さんって 本当に面白い方ですわ。 あっ お二人とも村岡さんで ややこしいですわね。 英治さんとお呼びしても よろしくて?」
英治「どうぞ。」
郁弥『安東さんは どんな小説がお好きですか?』
はな『大人から子どもまで楽しめて 夢のある小説です』
かよ「てっ…。 お姉やんが英語しゃべってるの 初めて聞きました。」
英治「弟を連れてきたかいがありました。 ずっと 英語から離れていたと 伺ったので 思い出してほしくて。」
はな「えっ。」
醍醐「英治さんって お優しいのね。」
かよ「お姉やん。 英語 もっと こぴっと しゃべってくれちゃ。」
はな「ああ…。」
郁弥「『こぴっと』。 なんて ミステリアスなんだ! あっ かよさん。 今 7時27分ですが お仕事は 何時ごろ終わりましたか?」
かよ「はっ?」
英治「弟は ロンドンで買ってきた あの腕時計が自慢なんです。」
郁弥「お仕事が終わったら どこかで会えませんか?」
英治「郁弥!」
かよ「ここは そういうカフェーじゃないので お店の外で お客様と逢い引きはしません。 ほかに ご注文は?」
郁弥「あ… いえ…。」
かよ「なければ 失礼します。」
英治「そうだ。 本 持ってきたんだろ?」
郁弥「うん。」
はな「わあ…。」
醍醐「すてき!」
郁弥「ロンドンの書店で書棚を見ていると 端から端まで 全部 日本に 持って帰りたくなるんですよ。」
醍醐「こんなに美しい本が 並んでるなんて…。」
はな「『The Prince and the Pauper』。 あの… 読んでもいいですか?」
郁弥「もちろんです。」