玄関
花子「いらっしゃいませ。」
平祐「やあ。」
英治「父さん。 何か 急ぎの用でも?」
平祐「いや 天気がよかったから 散歩のついでに寄ったんだ。」
英治「そう言って 毎週日曜に来てますね。」
平祐「たまたまだ。 たまたま!」
居間
平祐「調子は どうだね?」
花子「ええ。 相変わらず よく動くんですよ。 夜でも 足で蹴るから 起こされちゃうくらいです。」
平祐「そうか。 結構 結構。 それなら 男の子だな。」
英治「元気な女の子かもしれませんよ。」
平祐「いや まず1人目は 村岡印刷の跡継ぎを 産んでもらわないとな。」
英治「どっちでもいいからね~ 元気に生まれておいで~。」
花子「生まれておいで~。」
英治「ね~。」
平祐「(せきばらい)」
花子「お義父様…。 お茶もお出ししてなくて 失礼しました。 ただいま…。」
英治「大丈夫。 僕が入れるから。」
花子「平気よ。」
英治「明日 醍醐さんが 原稿取りに来るんだろ。 締め切り厳守だ。」
花子「お義父様 せっかく いらして頂いたのに すいません。 ゆっくりしていらして下さいね。」
平祐「仕事やめれば 全て解決するぞ。」
英治「父さん! 『王子と乞食』の翻訳は 君にしか できないんだから。」
花子「ええ。」
英治「ねっ。 はい! じゃあ 頑張って。」
花子「はい。」
書斎
<英治の協力もあり 花子は 臨月まで翻訳を続けておりました。>
カフェー・ドミンゴ
かよ「今日は お疲れみたいですね。」
平祐「ちょっと あてられてしまってね。 いつまでも新婚気分で困るよ。 君のお姉やんは きっと 出産の最中でも翻訳してるよ。 あれは。」
かよ「そうですね。」
平祐「英治も英治だ。 村岡印刷の次期社長とも あろう者が 尻に敷かれて。 だから 2人の結婚には反対だったんだ!」
かよ「そんな事おっしゃって… また 遊びに行くんですよね。」
平祐「いや! もう行かないさ。」
かよ「フフッ。 すぐに おいしいコーヒーを お持ちします。」
蓮子『龍一様。 私は 覚悟致しました。 全てを捨てます。 あなたに このまま お会いできないなら 生きてる意味など ありません。 あなたのそばで生きられない 今の境遇に もう 耐えられないのです。 悪魔の涙にぬれる私を 一刻も早く救い出して下さい。 蓮子』。