雑貨屋キン
純「これは?」
愛「だから 全然宮古っぽくないですよね。 っていうか 純さん全然デザイン画とか無視してないですか? ここに置くんですよ ここに?」
純「そんなことないよ。」
愛「…」
純「愛君 愛君 ねえ いい? ここに 1つの黒糖があります。」
愛「はい。」
純「これを ビビデバビデブー! 2つになった!」
愛「どうしたんですか?」
純「あ いや ケンカしてくないなって…。」
愛「いや 僕はケンカとか そういうつもりじゃ… 全然。 それは 純さんがノンビリしてて 全然決めてくれないからです。」
純「ごめんね…。」
キン「はい お茶飲むか?」
純「お願いし…」
愛「大丈夫です 今もう帰るんで。」
純「そんなこと言わないで キンさん せっかく淹れてくれるんだし。 落ち着くしさ。 ここのお茶飲むと。」
愛「雨漏りのことも気になるんで 僕は大丈夫です。 先戻ってますね。 ごめんなさい。」
キン「揉めてんの 旦那と?」
純「いや 揉めてるとかじゃないですけど まあ 基本的には私が悪いんで…。」
キン「じゃあ 気晴らしに 聴いてみる?」
純「え?」
キン「ジュークボックス!」
純「なんか懐かしいな…。」
キン「なんでひな祭りね?」
純「私 昔から イヤなことがあった時とか 落ち込んだ時に頭ン中にずっと この曲が流れるんですよ。 あ でも ウチの旦那に出会ってから ほとんど無くなったんですよ。」
キン「変わっているね あんた。 だから ウチの孫と付き合っていたのか。」
純「あの あいつ あれから どうなりました?」
キン「あんたが色々言ってくれたから 夕べは泊まっていったけど 今朝になって 用事があるからって それっきり。」
純「もしかして お金渡しちゃったんですか?」
キン「たった1人の孫だからよ。 どうしても 甘やかしてしまうさ。 もう 島に戻る気はないって。 東京で 成功して おばぁに贅沢させてやるって そう言っていたけど。」
純「でも キンさんは帰ってきてほしいんですよね? だから…。」
待田家
多恵子「もしもし。」
愛「ああ お母さん 今いいですか?」
多恵子「どうしたの?」
愛「あ いや 何もないんですけど なんか お母さんの声が聞きたくなって… すいません。」
多恵子「別に謝らなくても いいけど。 そういえば あなた 忘れ物してるわよ ウチに。」
愛「ねむり姫ですか?」
多恵子「送るから 宮古の住所教えて。」
愛「でも それは お母さんが持っていてください。」
多恵子「どうして?」
愛「いや 特に理由はないんですけど。 なんか その方が いい気がして。」
多恵子「なにかあったの そっちで?」
愛「いや なにもないです。 宮古はキレイだし 純さんと同じ目標に向かっていて 毎日幸せ… なハズなんですけど 何か不安で。」
多恵子「どうして?」
愛「人の本性が見えなくなったせいか 周りの人が僕のことを どう思ってるのか やたら気になったり 他の人のやることが なんだか許せなかったり 昔のイヤな自分に戻ってるような気がして。」
愛「ああ… ああイヤ 違うな… ただただ怖いんです。 でも 何が怖いのか わかんなくて。」
多恵子「彼女に相談してみれば?」
愛「なんだか イラついてしまうんです。 それが情けなくて。 純がいなくなった時から 僕の時間も止まっているような気がして。」
多恵子「だったら 私に電話すれば?」
愛「え?」
多恵子「結論は出ないかも知れないけど 話すだけでも 少しは楽になるから。」