珈琲店・太鼓
松田「看板を譲る?」
糸子「うん。」
昌子「優ちゃんを 店の頭にする ちゅう事ですか?」
糸子「せや。」
松田「ほな 先生は どないしはるんですか?」
糸子「いや けど 別に うちかて 辞める訳ちゃう。 形で言うたら 今のまんまや。 これまでどおり 店に出て 仕事すんで。 けど… オハラの看板は もう あの子のもんや。 大きい事は これから 全部 あの子が決める。 うちは それを助ける役に 回るちゅうこっちゃ。」
糸子「東京と岸和田 行き来してる間に あの子も もう一丁前や。 いや 一丁前どころか 働き手としたら 相当デカなってまいよった。 一軒の店に うちと あれが 同じ大きさで おってみ? あんたらも 仕事しにくいで。」
昌子「はあ…。」
松田「はあ。」
糸子「ちゅうても あの子に『あんた もういっぺん ちいちゃなり』ちゅう訳にも いかん。 順番から言うたら うちの仕事や。」
昌子「けど まだ早いんと ちゃいますか? そんなん うち…。 先生が そんなん言うん 嫌です!」
松田「そうです。 別に ええやないですか もうちょっと このままでも ねえ。」
糸子「おおきに。 せやけど だんじりかて あない 役は どんどん替わるやろ? どんなけ寂しいても 誰も文句言わんと どんどん 次に渡していく。 格好ええやないか あんなんが。」
安岡家
安岡美容室
糸子「何で?」
八重子「堪忍な…。 うちが泣く事 ちゃうんやけどな。 糸ちゃんが 21で 看板 上げてから それからの事は 全部 見てきたよってなあ。」
糸子「いや… けど 別に オハラ洋装店の看板 下ろす訳と ちゃうよって。 何も変われへんよ…。 何も…。」
小原家
居間
糸子「ただいま。」
松田「お帰りなさい。」
優子「お帰り お母ちゃん。」
北村「おう!」
糸子「何や 来てたんか。 お茶 頂戴。」
聡子「あ うん。」
優子「あんな お母ちゃん。 話があんねんけど。 ええ?」
(柱時計の時報)