糸子「あれ? ここで買うてる この生地は?」
大輔「ああ それは 買ったものの 気に食わなくて 使わなかったみたいです。」
糸子「はあ? なんちゅう無駄な事を…。 あのウスラボケ…。 大輔さん。 頼むさかい これからは うちの代わりに お宅が どないか あれ うまい事 仕切っちゃってな。 デザイナーとしては どうか知らんけど とにかく 経営者としては 赤ん坊以下やさかいな。」
大輔「はい。」
糸子「なあ 頼むで。」
<サイケ ヒッピー モッズルック。 このごろのモードは もう おしゃれ ちゅうより 仮装です>
「ジョニーじゃない!」
「やだ ほんとだ!」
直子「あら いらっしゃい。 どうも 奥へ どうぞ。 ごめん。 ちょっといい?」
「うん いいわよ ジョニーだもん。」
「早く行ってあげて。『毎日忙しくて 2時間しか寝てない』って インタビューで言ってたし。」
直子「じゃあ ごめんね。」
ジョニー「あ~。」
直子「ちょっと 何で 脱いでんのよ? 早く履いてよ 今から 丈 見るんだから。」
ジョニー「だって これ 疲れんだよ~。」
直子「いいから 早く履いて。」
ジョニー「なあ もう いいんじゃないの? 俺 背低いの バレても。」
マネージャー「そういう訳には いかないよ。」
ジョニー「俺 音楽だけで 勝負できると思うんだけど。」
マネージャー「まあ そりゃ あと3年後の話。」
直子「いいから はよ履いて。 時間 ないんねやろ? なあ。」
マネージャー「あと5分で移動。」
直子「ほれ 見てみ。 はい! はよ履き! 早く。 靴べらも はい。」
ジョニー「ったくよ~。」
直子「はよ立って! 子供か! はい! よいしょ。」
ナナコ「そういう苦労 知ってるから 私 もっと一流の女優になって 親孝行したいんです。」
糸子「うんうん。」
ナナコ「だから どんな恥ずかしくたって それで 有名になれるんなら 私 何だって やってやろうと 思ってるの。」
糸子「ふ~ん ほうか 偉いなあ。」
(泣き声)
糸子「泣きな~ なあ。」
(泣き声)
ナナコ「おかあちゃん。 私 間違ってないかしら?」
糸子「何も間違うてへん。 自信持って やり。 いざっちゅう時はな いつでも 岸和田 来たら うちで 雇ちゃるさかい。 なあ。」
ナナコ「ありがとう。 ありがとう おかあちゃん!」
糸子「大丈夫や 大丈夫や。 なあ。」
ジョニー「あれ? おかあちゃん 来てたの?」
糸子「あれ 久しぶりやな。」
ジョニー「いつから? あ そっか 直子の結婚式で?」
糸子「せや。 あんた また 背ぇ 高なったか?」
ジョニー「なったよ~。 見てよ これ。 今度は 15cmだぜ? 勘弁してほしいよ!」
マネージャー「ジョニー 行くぞ。」
ジョニー「じゃあね おかあちゃん。 …と 誰? 君。」
ナナコ「白川ナナコ。」
ジョニー「ナナコ。 おかあちゃんと ナナコ。 じゃあね。」