連続テレビ小説「カーネーション」第126回「悔いなき青春」【第22週】

糸子「このごろ いよいよ 危なっかしいてな お母ちゃん。1人で 台所 行かされへんやし。」

八重子「はあ… ほうけ。」

糸子「ほんで どないしたん?」

八重子「ああ うん。」

糸子「うちに 話て?」

八重子「せや。 うち もうそろそろ 店 閉めさして もらおかと 思てんやし。」

糸子「え?」

八重子「太郎も そないして もう うちへ来い ちゅうてくれてなあ。 うちが 1人で店してんのが もう心配なんやて。 確かにな 一日の立ち仕事が このごろ こたえるようには なってきてるんや。 まだ ちょっと早いかなあとは 思うんやけど。 新しい暮らしに慣れんのも そら それで 力いる事やさかいな。」

糸子「ほうか。」

八重子「うん。」

糸子「寂しいなあ。」

八重子「せやなあ。」

糸子「はあ…。」

八重子「せやけど あれやで。 糸ちゃんは まだまだ 頑張らんと あかんで。 オハラ洋装店は 岸和田一の 名店なんやさかいな。」

糸子「いや それがな…。 今な うちも 東京に誘われてんやし。」

八重子「はあ ほうか。」

糸子「ふん。 優子が来年 東京行くんやて。 北村も 行くんやて。 直子も おるやろ。 せやさかい お母ちゃんも 来いて。」

八重子「はあ まあ そらそやわ 余計な事 言うてしもたな。 ま 堪忍な。」

糸子「ううん!」

八重子「せやけど 東京ゆうたら ええやんか! 格好ええし。 もう…。」

糸子「あ し~っ!」

昌子「どうぞ 続けて下さい。」

糸子「え?」

昌子「知ってますさかい。」

糸子「え?」

昌子「うちも 恵さんも 先生の ええようにしてもらうんが    一番や思てます。」

糸子「そら おおきに。」

千代「何や むつかしい話か?」

糸子「いやいや 何も むつかしい事ない。」

昌子「大丈夫です。 おかあさん。 なかなか ないですよ そない ええ話。 決めたら ええんと ちゃいますか?」

糸子「うん…。」

八重子「迷てんの?」

糸子「いや 正直 よう分かれへんねん。 東京に出るんと 岸和田 残るんと 自分は どないしたいんか どっちの方が おもろい思てんのか。 その肝心なとこが 自分でも よう分かれへんねん。 情けないこっちゃ。」

昌子「そら 東京の方が おもろいん ちゃいますか?」

糸子「うん?」

昌子「みんな あない 東京に行きたがるんは よっぽど 東京が おもろいからでしょ?」

糸子「う~ん。 いや あらなあ 何ちゅうか 新しいゲームが 始まってしもてんや。」

八重子「ゲーム?」

糸子「うん。 優子の話やら 聞いちゃったらな 何や そんな気がしてくるんや。 戦争と同じくらい 大層な ようさんでやるゲームが。 それがな えらい おもろいらしい。」

昌子「やっぱり おもろいんやないですか!」

糸子「あ~ しんだいやろ ゲームて。 敵ばっかし おって 頭ばっかし のぼせて。 うちはな 洋服 こさえられたら ほんで よかったんや。 それが いつの間にか 洋服も ゲームになってしもた。 うちに 洋裁を教えてくれた 根岸先生ちゅう先生がな こない言うたんや。『ほんまに ええ服は 人に品格と誇りを与えてくれる。 人は 品格と誇りを持って 初めて希望が持てる』。」

八重子「分かるわ。」

糸子「今は モードの力 ごっつい強いやろ。 去年 最高に良かった服が 今年は もうあかん。 どんなけ ええ生地で 丁寧に こさえたかて モードが 台風みたいに 全部 なぎ倒してって まいよんねん。」

昌子「そうですね。」

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