玄関前
篠山「ありがとうございました~!」
糸子「兄ちゃん! 心配かけたな!」
篠山「大丈夫ですか? お大事にして下さい。」
糸子「おおきになあ。 おおきに。」
一同「あ~!」
糸子「う~ん! う~う! ちゃっ ちゃっちゃ!」
<はあ… 情けない>
糸子「ふふん。 ふ~ふん!」
リビング
<年を取るちゅう事は 当たり前に でけるはずの事が でけへん その情けなさに耐える事。 しかも 今 でけてる事も これから先 どんどん でけへんようになっていく。 その怖さに 耐える事。 たった1人で 何でやろ。 この家で いろんなもんを生んで 増やして 育ててきたつもりやのに。 結局 1人になってしもた どっかで 何か間違えたんやろか。 それとも そもそも 人間が そうゆうもんなんやろか? ここで泣いたら あいつの 思うつぼじょ うちは 泣かへん。>
糸子「泣かへんで。」
糸子「何や?」
里香「ママ達の いびきが うるさくて 寝られない。」
糸子「お休み。」
里香「おばあちゃん。」
糸子「うん?」
里香「私が いるから。 いるから… ずっと。」
(泣き声)
<朝の こんな時間に テレビ 見るなんか 初めてやで>
優子「お母ちゃん。 ほな うちら 一旦 東京 戻るよって その前に ちょっと 話ええ?」
糸子「これ 見てる。」
直子「ちょ お母ちゃん。 うちらも 出んとあかんねん。 昼の再放送 見たらええやろ。」
糸子「何や?」
優子「あんな お母ちゃん。」
(小鳥の鳴き声)
優子「昨日の夜 あれから 聡子と電話で話して そのあと 直子とも よう話したんや。 せやさかい これは うちだけやのうて 3人の意見やと思て 聞いてほしい。」
糸子「何や?」
優子「お母ちゃん もうそろそろ引退して ゆっくりしたら どやろ?」
糸子「何?」
直子「うちらも お母ちゃんの やりたいようにちゅうて 今日まで思てたけど やっぱし 70越えて もう そない ガツガツ仕事するんは 体に ええ事ないで。」
糸子「はあ~! あんたら 今更 何 言うてんや! うちが 仕事 辞めたら 誰が あんたらの手伝いすんや?」
優子「手伝い?」
糸子「毎日 電話してきて 何じゃかんじゃ モノ頼んでくんの どこの誰や!」
直子「ああ。」
優子「この際やから言うけど あれは うちらが あえて やってた事や。」
糸子「何?」
優子「お母ちゃんが 仕事好きなん 知ってるよって お母ちゃんの 負担になりすぎへんような事をちょっとずつ 頼むようにしてきたんやし。」
直子「何も 自分らのためちゃう。 お母ちゃんのためや。」
優子「せやけど あんな仕事 ほんまは どないでもなんねん。 お母ちゃんは 何も心配せんでええ。 お母ちゃんさえ その気になってくれたら うちらは いつでも 東京に 迎える準備は あるんや。」
直子「正直な うちらも その方が助かる。 お母ちゃんに 岸和田に1人で いてられたかて その方が心配や。 何かあったら そのたんびに 仕事 ほっぽって 岸和田 帰ってこなあかんねん。」
優子「頼むさかい ほんまに よう 考えてみてもらえへんやろか。 お母ちゃん?」