オハラ洋装店
(ため息)
<甘ないもんです>
孝枝「あ 先生 帰ってる。」
糸子「あ?」
孝枝「準備でけてますか?」
糸子「何やった?」
孝枝「はあ! 今日3時から 毎朝新聞さんの 取材やちゅうたやないですか!」
糸子「あ~ せやったな。」
孝枝「せやったなちゃいますわ もう! はよ 着替えて下さい! もう。」
記者「すてきな企画ですねえ!『オハライトコと88人のボーイフレンド』。」
糸子「こら もとはちゅうたら ちっちゃい集まりやったんですわ。 奥さんに先立たれた 男の人ら集めて うちで 御飯 食べましょうちゅう。」
記者「はあ!」
糸子「男の人ら同士は 知り合いでも 何でもなかったんやけど それが かえって 気楽で よかったらして ごっつい仲良うなって。」
記者「はあ~!」
糸子「その人らが あんまり いそいそ 集まるもんやさかい よっぽど そのオハラが別嬪なんか 飯がうまいんか ちゅうて 他の人らも のぞきに来るようなって どんどん メンバーが増えていって。 ほんで 気ぃ付いたら。」
記者「88人になったんですか?」
糸子「いや 88人かどうか 知らんで。 うちの米寿の祝いと かけてくれたんやろと思うけどな。」
記者「うらやましい。 あやかりたいですわ。」
糸子「お宅 年なんぼ?」
記者「49です。」
糸子「これからや! うちかて こんなん 若い頃は 思てもみんかった。」
記者「先生 若い頃は どんなやったんですか?」
糸子「うちか? うちは サルやら ブタやら 不細工やら。」
記者「そんなん 言われてたんですか?」
糸子「言われちゃったなあ。 もう! くっそ! あいつに この写真 見せたれんもんかいなあ。」