木之元電キ店
木之元「先生 どないですか?」
根岸「あら お帰りなさい。」
木之元「はい。」
根岸「いかがでしょう? ミシン ここに 置いてみたんですけれど。」
木之元「ほう なるほど。 ええんちゃいますか~!」
根岸「フフッ 私が ここに座って お客様が こちら側。 私が こう ミシンを使って お見せしますでしょう。 あ その時は 奥様にも いろいろ お手伝い頂いて よろしいでしょうか?」
節子「えっ うちですか?」
木之元「そらもう! なんぼでも 使うちゃって下さい。」
根岸「助かりますわ! よろしくお願い致します。」
木之元「あ 先生。 小原さんとこの 嬢ちゃんも ミシン 使えますんやで。」
根岸「えっ? まあ お嬢様 おいくつなんですの?」
善作「え? あ はい 16に… え? …17やったかな?」
根岸「まあ 17歳。 偉いわ 若いのに。 洋裁に 興味をお持ちなんですの?」
木之元「いや 先生 小原さんとこは 呉服屋やさかい 洋裁は ご法度…。」
善作「要らん事 言うな。」
根岸「おうちが 呉服屋さんでしたら 将来 ますます有望ですね。 お嬢様 いいお着物 たくさん見て お育ちになってるでしょうから。」
善作「そら そうですわ。 目ぇだけは 肥えさせたつもりです。」
根岸「私は 洋裁の勉強ばかり してまいりましたでしょう。 ですから 着物の方は まだまだ これからなんです。 着物だけじゃありませんわ。 日本舞踊に お能 謡 習いたい事が たくさんで 困っております。」
善作「謡?」
木之元「謡ですか? ほんなら 先生 小原さんに 教えてもろたら よろしいやん。」
根岸「え?」
木之元「小原さん 謡の先生 やってますんやで。」
根岸「まあ 本当ですか?」
善作「はい やっております。 そら よかったら うち 来て下さい。 うち そ そ そ… そこですねん。」
根岸「うれしいわ そんなふうに言って下さって。」
(ミシンの音)
<その日 根岸先生のミシンの実演販売は 夕方5時まで やったそうです>
「うわ~ すごいね~。」
<トボトボ帰ってきたうちが たどりついたんは もう終わり ほんの15分前のとこでした>
「えらいスイスイ 簡単に やってはるけどな。」
「東京の洋裁の先生やって。」
「はあ~ さすがにハイカラやなあ。」
「東京に人やって…。」