小原呉服店
善作「ぷっ! 熱っ あつつ! お前 何じゃ そら!」
根岸「ちょっと出かけて参ります。」
善作「そ そんな格好でけ?」
根岸「ええ これも大事な授業です。 洋服を作る者は 着る方の気持ちを きちんと知っておかなければ ならないんです。」
善作「いや うちの娘が そないな格好で 街 歩かれたら。」
根岸「遅くはなりませんわ。 行って参ります。」
善作「ちょっと ちょっと!」
(妹達の はしゃぐ声)
町中
糸子「先生 どんな顔して歩いたら ええんか 分かりません。」
根岸「あなたの好きな花は 何?」
糸子「花ですか? カーネーションです。」
根岸「どうして?」
糸子「あの花は 根性あるて おばあちゃんが。」
根岸「根性?」
糸子「ほかの洋花と違て カーネーションは 簡単に しおれへん。 カビ生えるまで咲いてるて 感心してました。」
根岸「まあいいわ。 カーネーションね。 じゃあ カーネーションになったつもりで歩くの。」
糸子「カーネーションですか?」
根岸「そう。 カーネーションの花 堂々と咲いてるでしょ?」
糸子「堂々と…。」
根岸「恥ずかしがって 咲かないカーネーション 見た事ある?」
糸子「そら ないですけど…。」
根岸「ただ無心に咲く。 それでいいの。」
糸子「はあ。」
根岸「糸子さん!」
糸子「はい。」
根岸「私は 今 あなたに 一番 大切な事を 教えてるの。 堂々としなさい。 洋服を着て 胸を張って歩くという事を あなたの使命だと思いなさい。」
心斎橋
<洋服を着て 胸を張って歩く心斎橋は 全然ちゃう街みたいに 思えました。 まず 今まで目の合うた事のない 人らと 目が合います。 それから やたらと鏡が気になります。 それから よう 人に話しかけられます>
パーラー・浪漫堂
根岸「こんにちは!」
「いらっしゃいませ!」
<それから…>
糸子「あ~!」
<くたびれます>
根岸「糸子さん。」
糸子「はい。」
根岸「立ち居振る舞いは 常に美しく。」