台所
ハル「善作や。」
糸子「お父ちゃん?」
ハル「うん 間違いない。 善作の字ぃや。」
糸子「え…? お父ちゃん… いつの間に こんなん 書いたんや?」
オハラ洋装店
糸子「オハラ洋装店 店主 小原糸子。」
<うちは 何や 初めて お父ちゃんに 認めてもうたような 気がしました>
(戸をたたく音)
『小原さん 電報です!』
糸子「はい!」
玄関
「はい 電報です。」
糸子「ご苦労さんです。」
「失礼します。」
<落ち着け…。 まず どうする?『スグ コイ』ちゅうんやから 朝一番の電車で…>
糸子「せや… 旅館の住所 聞いとこ…。」
玄関前
糸子「おばちゃん?」
美代「ああ…。 そや… あれ?」
糸子「何や?」
美代「そうや 小原さん 今 温泉 行ってんのに 何でや? うち 今 しゃべっちゃあったわ。」
糸子「何て?」
美代「は?」
糸子「お父ちゃん 何て言うたん?」
美代「『糸子を よろしゅう頼む』て…。」
糸子「待って… お父ちゃん。 待って 行かんといて お父ちゃん!」
糸子「待って… 待って…。 行かんといて… 待って! 行かんといて! お父ちゃん! 待って お父ちゃん! お父ちゃん 待って~!」
<昭和18年4月27日。 享年 59でした>
(泣き声)