おぐら荘
(戸をたたく音)
稔「はい。 あ… 勇。」
勇「うそじゃろう?」
稔「うん?」
勇「あんこのこと 捨てたりせんよな? 兄さん。」
勇「帰ってくれ。 お前と違うて僕は忙しいんじゃ。」
勇「見損なったよ! 兄さんを信じとったのに。 あんこのこと 傷つけたりせんて 信じとったのに。」
稔「それじゃったら… お前が慰めてやりゃあええ。」
稔「うっ!」
勇「ふざけんなよ! ふざけんなお! 兄さんじゃから 諦めたんじゃ。 兄さんじゃから… わしは…。」
稔「(すすり泣き) もう… どうだってええんじゃ。 (すすり泣き) どうだって…。 (すすり泣き)」
岡山駅
小しず「寒いな。」
安子「うん。 お母さん それ重てえじゃろう 私 持つわ。」
小しず「ありがとう。 じゃあ これ持って…。」
安子「うん。」
小しず「よいしょ。」
ラジオ『これより ソロモン群島 ガダルカナル島に 作戦中の部隊は 優勢なる敵に対し…』。
橘家
中庭
ラジオ『激戦敢闘せしが その目的を達せるにより 2月上旬 同島を撤収し 他に転進…』。
安子『ただいま~。』
小しず『ただいま。』
お菓子司・たちばな
金太「おお 帰ったか。」
小しず「小豆が手に入りましたよ。」
金太「お~。」
安子「お母さんのこと 覚えてくれとる人がおったんじゃ。」
小しず「里の身内は だいぶ前に みんな 亡うなっとるのに。 ありがてえことです。」
金太「おめえの着物と 換えてしもうたんか?」
小しず「ええんです。 店は開けれんでも せめて 近所で お祝い事があった時には 何か作ってあげたいでしょう。」
安子「おじいちゃんと おばあちゃんは?」
金太「それがのう…。」