泰樹「ん? 何だ。」
なつ「あの… お願いがあります。 天陽君を助けて下さい。」
泰樹「何 助ける?」
なつ「畑で 収穫ができるように。」
泰樹「親は とっくに諦めてるんだべ。」
なつ「天陽君は それでも やりたいって言ったんです。 はっきり言いました。 土に勝ちたいって。」
泰樹「勝ちたい?」
なつ「はい。 土に勝たせてあげて下さい!」
泰樹「無理だ。 土が悪すぎる。」
なつ「見てもないのに…。」
泰樹「見んでも分かる。」
なつ「おじいさんだって 最初は そうだったんでしょ? 土が悪かったって。」
泰樹「なつ もう ほっといてやれ。」
なつ「うそつき! おじいさんは 自分の力で働いていたら いつか 必ず 誰かが助けてくれるもんだ って言ったじゃない! 天陽君は 一人で頑張ってるの! 一人で 土を耕してるの! 天陽君を 誰が助けてくれるの!?」
剛男「なっちゃん 分かったから… ねっ。」
居間
剛男「なっちゃんは?」
富士子「部屋に行ったみたい。」
剛男「そう… 天陽君が離農しそうだって 本当に心配してるんだなあ。」
富士子「天陽君 いなくなるの?」
剛男「うん。 それで お義父さんに 助けてくれって 泣いて頼んでたよ。」
富士子「あの子が そんなことを?」
剛男「優しい子だよ。」
夕見子「好きなのさ その子が。」
剛男「好きなのか… えっ?」
夕見子「あの子の好きな人でしょ 天陽君って。」
富士子「そうなの? やっぱり。」
剛男「いや いや いや いや 好きとか 嫌いとか そういうもんでは ないでしょう。 まだ子どもなのに。」
夕見子「はあ~?」
富士子「それは あなたが まだ子どもだと思いたいだけでしょう。」
剛男「えっ?」
富士子「好きになった小と離れたくないのね きっと。」
剛男「いやいや それは 君が 逆に あの子を子どもに見てるだけだと思うな。 あの子の怒りは そんな単純なものでは なかったような気がする。」
泰樹「じゃあ どういうもんだ?」
剛男「ああっ… あの もっと… この世界に対する 何と言うか こう…。」
泰樹「あの子の怒りは あの子にしか分からん。 それでいい。 ごちゃごちゃ言うな。」
剛男「ごちゃごちゃ言わせてるのは お義父さんでしょう。」
泰樹「何?」
剛男「あっ いや…。」
なつ<私にも そんなことは分かりませんでした。 自分が なぜ あんなに怒ったのか>
語り<なつよ おれは お前が 今 少なからず幸せだからだ。>