玄関前
なつ「行ってきま~す!」
菊介「行ってらっしゃい!」
悠吉「気ぃ付けてな~!」
菊介「頑張れよ~!」
照男「なつ!」
なつ「ん?」
照男「破水した! じいちゃんが お前呼んでこいって!」
旧牛舎
なつ「じいちゃん!」
泰樹「なつ 逆子だ。」
なつ「えっ… 逆子?」
泰樹「後ろ足から出とる。 照男 獣医呼んでこ。」
照男「分かった。」
(鳴き声)
富士子「逆子だって?」
なつ「母さん…。 このまんま 獣医さんを待ってたら 間に合わんくなる。」
泰樹「だが 母牛だけは助けたい。」
なつ「そんなこと言わないで! じいちゃん 子牛も助けよう。」
富士子「なつ…。」
なつ「逆子は 時間がかかると 途中で へその緒が切れて 子牛が おなかの中で 息ができなくなるかもしれんって 学校で習った。 早く引っ張り出さんと 子牛が生きられんよ!」
泰樹「じゃあ 陣痛に合わせて引くぞ。」
なつ「急いで。」
泰樹「来るぞ。 よし 引っ張れ! もっと! 戻すな!」
泰樹「泰樹 ちょっと待て… やんだ。」
新牛舎
「おはようございま~す。」
菊介「ご苦労さん。」
「あれっ? 今日は1人かい?」
菊介「ああ。 難産の母牛がいるもんで。」
「難産?」
菊介「どうも逆子みたいでさ。」
「あらららら 逆子かい。 それは あずましくないね。」
旧牛舎
泰樹「もっと引け! 戻すな! 引っ張れ!」
なつ「お願い 助かって!」
泰樹「よし 引け! よ~し 出るぞ。」
なつ「なして動かんの?」
泰樹「息をしとらん。」
なつ「えっ?」
悠吉「間に合わんかったか…。」
泰樹「ダメだ…。」
なつ「じいちゃん 私にやらして!」
泰樹「なつ これで 息をしとらんかったらダメだ 諦めろ。」
なつ「まだ! 学校で 人工呼吸習った。」
富士子「人口呼吸? 牛に?」
なつ「お願い やらして。」
富士子「なつ…。」
なつ「羊水飲んだのかもしれん!」
悠吉「なっちゃん そったらことまで…。」
富士子「なつ!」
なつ「あっ…。 やった…。 やった~。 やった~。」