藤田「なつさんか。」
なつ「はい…。」
藤田「北海道から よく来なすった。」
なつ「兄が お世話んなりました。」
富士子「私は なつの母親です。」
藤田「あんたも偉い。」
富士子「いいえ…。」
藤田「咲太郎は 戦後のマーケットで うろうろしてるところを助けたんだ。」
なつ「それは ありがとうございました。」
藤田「助けたのは俺じゃねえ。 戦前から ムーランで踊ってた 岸川亜矢美っていう踊り子だ。 亜矢美が あの子を 俺のところへ連れてきた。 亜矢美は 母親のように 咲太郎をかわいがってた。」
藤田「だから 咲太郎にとって ムーランルージュは 母親のいる場所 宝のような場所だと思っていただろう。 あいつは ムーランルージュが潰れた時 それおw 必死に買い戻そうとしたんだ。」
なつ「兄がですか?」
藤田「要するに だまされたのよ。 イカサマ興行師の口車に乗せられて 10万円用意すれば 共同経営者として 買い戻せると思い込み 金貸しから借りたのよ。 それを そのイカサマ野郎に 持ち逃げされたんだ。」
富士子「10万もですか!?」
藤田「ああ。 金貸しも 10万もの金 まだ ガキだったあいつに ただ貸すわけがねえ。 誰かが あいつの保証人になったんだ。 だから 咲太郎は その10万円を作るまでは 新宿に戻らねえ。 そう言って 姿を消したんだ。」
茂木「どこの誰なんですかね。 しかし まあ その保証人も よほどのお人よしか バカですな。 ハハハ…。」
野上「マダム!?」
富士子「えっ?」
藤田「まさか…。」
茂木「マダムが!?」
光子「あ… 親分 咲太郎は だまされたって 本当ですか? 咲ちゃんは 私を だましたわけじゃないのね?」
藤田「そりゃ違う。」
光子「はあ~ おかしいと思ったわ。 たかだか 10万円で 劇場を買い戻せるわけがないもの。」
茂木「いや それを信じたの? マダムともあろう人が?」
光子「だって… 私は 咲ちゃんの夢を買ったのよ。 だからね なつさん 私のせいなのよ。 きっと お兄さん 私に 借金を返さなくちゃと思って…。 そうしないと 妹のあなたに 請求されると思ったのかもしれないわね。」
佐知子「あっ いらっしゃいませ。」
信哉「なっちゃん…。」
なつ「信さん どうしたの?」
光子「あっ… どうぞ。」
信哉「すいません。 警察で 少し話が聞けたよ。」
なつ「えっ?」
信哉「あいつは 泥棒はしてないと 言ってるらしいけど じゃあ 誰からもらった時計なのかと 聞かれれば それを言わないそうなんだ。 多分 誰かを かばってるんだと思う。」
なつ「お兄ちゃんは どうなるの?」
信哉「分からない。 それで… 警察から あいつの手紙を預かってきたんだ。」