光子「それは… 新劇好きのお客様に あげるためですよ。」
なつ「マダムは やっぱり 兄を…。」
光子「違うわよ! 恋じゃない!」
なつ「いえ… 応援してくれてるのかと思って。」
野上「実のところ 似た者同士だったりはしますね。」
光子「野上さんまで 何を言ってるんですか。」
信哉「こんにちは。」
光子「あら いらっしゃい。」
野上「いらっしゃい。」
信哉「なっちゃん!」
なつ「信さん。」
信哉「来てたんだ。」
なつ「うん。」
信哉「あっ ちょうどよかった。 もうじき テレビジョンで 僕が取材したニュースが流れるんだ。 一緒に見てよ。」
なつ「へえ~ 本当に?」
信哉「うん。」
テレビ『日夜 増幅し続ける街 東京。 そんな中 取り残されるのが 子どもたちの存在です。 東京の玄関口 上野では 毎月30人の迷い子が保護されます。 一日3回 駅を巡回しているのは 上野署の警察官たち。 この日も 駅で泣きべそをかいていた マツカワカツミちゃん 7歳に 声をかけました。 どうやら 離れて暮らす父親に 会いに行こうと駅まで来たものの 途方に暮れていた様子。 母親が迎えに来た瞬間 大粒の涙をこぼす カツミちゃん。 その姿に警察官も…』。
回想
千遥「お母さんに会いたい!」
なつ「大丈夫だってば!」
回想終了
テレビ『恋しくて しょうがなかった という感じで 何度も見つめ合う2人。 都会という名の砂漠を潤す家族の絆です』。
光子「これが 信さんのニュース?」
信哉「はい。 1年かけて 顔なじみの警察官も増えて やっと踏み込んだ取材が できるようになったんですよ。」
なつ「ねえ 信さん… お願いがあるんだけど。」
信哉「何?」
なつ「千遥を見つけたい。」
信哉「えっ?」
なつ「千遥の行方を捜したいの。」
<なつの知りたいニュースは それだよな。>
信哉「それは 僕も ずっと 着にはなってはいるけど… 咲太郎は 捜してもしょうがないと言うし…。」
なつ「お兄ちゃんは 千遥は とっくに 私らのことを忘れて幸せにしてるから それを邪魔しちゃいけないって 言ってるだけ。 居場所が分かったって 千遥の幸せを邪魔するようなことは 絶対にしない…。」
光子「咲ちゃんは 違うんじゃないのかな。」
なつ「えっ…?」
光子「もし会っちゃったら 自分が どうなるか分からなくて 苦しんでるんじゃないかしら?」
信哉「どういう意味ですか?」
光子「千遥ちゃんに 今の自分が何をしてやれるかって… そんなふうに 自分の心が乱れるのが 怖いのよ きっと…。 なっちゃんの時も そうだったじゃない。」
なつ「お兄ちゃんには 私が話す。 したら 信さん 捜してくれる?」
信哉「それは もちろん 必ず捜すよ。」