東洋動画スタジオ
会議室
<季節は 初夏を迎えました。 なつたちは 『ヘンゼルとグレーテル』の ストーリーが固まらず 生みの苦しみを味わっていました。>
下山「もう そろそろ決めて 作画の作業に入らないと間に合わないぞ。 このままだと 上から もう作るなと言われかねない。 次の長編も 迫ってきてるわけだし…。」
なつ「そんな…。」
麻子「もう限界よ…。」
なつ「あと一歩のところまで来てるんです。 結末が見えてないだけで…。」
麻子「ここまで来て 結末が見えてないのが 限界だって言ってんの。 しょせん 私たちは作家じゃないのよ。 絵描きなの。」
神地「あの… もう作画しながら 考えるっていうのは どうでしょうか?」
麻子「ダメ! 何言ってんの。 これ短編なのよ。 先が見えないで 長さ どうやって測んのよ。」
神地「長くなったら 削ればいいかと…。」
麻子「時間と労働の無駄!」
神地「はい…。」
坂場「森なんですよ…。」
なつ「森?」
坂場「兄を助けようと いちずなグレーテルに 心を打たれた魔法使いの魔女が 森を支配する悪魔を裏切り そして ヘンゼルとグレーテルを連れて 森の中へ逃げていく。 そこに 悪魔の放った 無数のオオカミたちが迫ってくる。 そこまでは いいですね?」
なつ「はい。」
坂場「あとは その森で 何が起きるかです…。 僕は この話 子どもたちが いかにして 森を信じられるかだと思っています。 それは つまり 自分の生きる世界 生活を信じられるかどうかです。 どんなに恐ろしい世界でも そこに生きるものが 自分の味方だと思えれば 子どもたちは 未来を信じることができます。」
なつ「森を味方にするってことですか…?」
茜「ねえ なっちゃん 北海道に森はないの?」
なつ「いや そりゃ ありますよ いっぱい。」
下山「う~ん… 森…。」
作画課
<なつは その夜 遅くまで 十勝を思い浮かべながら 森のイメージを描いていました。>
なつ「はあ…。」
なつ「ええっ! ちょ… ちょっと ちょっと… うわ~ ちょっと ちょっと…!」
なつ「う~ん…。」
坂場「どうしました?」
なつ「ええっ!?」
坂場「あっ いや あの… うなされてたようなので 具合でも悪いのかと…。」
なつ「あっ… 大丈夫です…。 ちょっと 変な夢見ただけです。」
坂場「夢?」
なつ「あっ… その夢で 何か思いついたんです!」
坂場「何を思いついたんですか?」
なつ「魔法です!」
坂場「魔法?」
なつ「魔女が 魔法で 森にある一本の木を怪物に変えたらどうでしょうか!?」
回想
弥市郎「自分の魂を 木の中に込めるんだ。」
回想終了