東京
喫茶店
恵里「すごいですね 朝から。」
聡子「夜勤明けだから 私にとっては ディナーなわけ 分かる?」
恵里「なるほど。」
聡子「仕事が終わって ビール飲んで おいしい物 食べて 帰って寝る。 いいでしょ?」
恵里「いいと思います。」
聡子「でも 朝とか昼間に 1人で これを やってると 変な目で見られるの。」
恵里「ああ…。」
聡子「大抵は 疲れちゃって 何も食べず 帰って バッタリ寝ちゃうのよね。 それで おなかすいて 起きるのよ。 あの時の気分は情けないわ。」
恵里「あ… お一人なんですか?」
聡子「何で?」
恵里「何となく。」
聡子「皆 そうなのよね。 普通『ご結婚は?』と聞くでしょ? 何で 私の時だけ『お一人ですか?』なの? なんで?」
恵里「すみません。」
聡子「まぁ いいけど。 実際 1人だから。 あ ビリカラチョリソを 1つ。」
店員「はい。」
聡子「それはそうと あんた 本気なの?」
恵里「はい。 もちろん 本気です。」
聡子「大変な仕事だよ。」
恵里「分かってるつもりです。」
聡子「『分かってるつもりです。』? 何を言ってんの。 冗談じゃないわよ! そういう生意気 言わないで!」
恵里「え?!」
聡子「どんな仕事か あんたに 分かってる訳 ないでしょう! そういう 分かったような事を 言われると 頭くるのよ。 ホント。」
恵里「すみません。 すみません 本当に。」
聡子「ごめん! ちょっと きつかったかな?」
聡子「仕事自体が どんなに大変なのかは 口で言われても 分からないのよ。実際やってみないと。 あなたが 本気で やる気があって 学校に入ったとしたら システムとか 分かってる?」
恵里「はい さっき。」
聡子「『さっき』?」
恵里「あ! すみません。」
聡子「学校に入ったら 嫌というほど 教わるから 私は やめとく。」
恵里「はい。」
聡子「それよりも 女としてどうなのかを 教えてあげるね。 いい?」
恵里「はい。」
聡子「恋愛! 難しいわよ!」
恵里「え?」
聡子「普通の人と恋愛しても 時間が 合わないのよ。 変な時間が 休みで。 最初は 無理して 夜勤明けなのに 昼間から 映画なんか見にいって 気合入るの。」
聡子「つきあい始めの頃。 それで 恋愛映画 見ながら ガ~ッと 寝ちゃったりするのよ。 『無理しなくて いいよ』とか 言われるんだけど こっちが無理しないと つきあえないでしょ!」
恵里「はあ…。」
聡子「うまくいかなくなる事が多い。 でさ…。 いつでも会えるとかいう ロクでもない男に引っかかる。 いつでも会えるって事は 何も してなかったりするわけ。」
恵里「はあ。」
聡子「あと 性格 悪くなるかも。」
恵里「『性格』? 何でですか?」
聡子「全員とは言わないけど この仕事は 人に奉仕するというか 優しくするというか その気持ちが無いと できない。」
恵里「はい。」
聡子「でも 愛と奉仕の精神だけでは 実際に やっていけない。 分かる。」
恵里「はあ。」
聡子「あと スタイル悪くなる。 足 太くなるしね。 夜勤 続くと 体に よくないさそうな物ばかり 食べたくなるのよ。 お菓子とか。 仕事 大変なのに 太るというのは 悲しいよ。」
恵里「それ 皆 ご自分の事ですか?」
聡子「そうよ。 それからね。」
恵里「まだ あるんですか?」
聡子「あるわよ! 山ほど。 白衣が 一番 似合う人になるのよ。」
恵里「どういう意味ですか?」
聡子「つまり 私服が だんだん いいかげんに なったりするのね。 白衣って 結構 かわいいでしょ?」
恵里「ええ。」
聡子「男の患者さんに メチャクチャ もてるわけよ。 彼らにすれば 普通の暮らしの中で 女性に優しくされていない。 文字通り 私達が 天使に見えるらしい。」