<そんな 過疎の町を なんとかするために アキの母親は呼び戻されたのです>
<みんな 必死なんだ。 きれいな海や おいしいウニ かわいい電車。 それだけじゃ 人は生きていけない>
<それでも アキは ここが好き。 ここにいる自分が 好きです>
天野家
春子「お母さん。 夏さん。」
夏「今 何時だ?」
春子「3時。」
夏「もうちょっと 寝かせてけろ。」
春子「今日 アキが帰ってきたら 東京に帰るか ここに残るか 決めてもらうつもりです。 アキは 残りたいって 言うと思います。 それくらい あなたに懐いてます。 もちろん 無理やり 連れて帰る事だって できます。」
春子「でも… 果たして それが あの子のためなのか。 親としては 考えてしますんです。 東京での あの子は 感情を表に出さない 内気な子なんですよ。 殻の閉じ籠もって 家族にも友達にも心を開かない。」
春子「『うんめえ!』とか『かっけえ!』とか『じえじぇじぇ!』とか 絶対 言わない子なんですよ。 どっちの 本来のアキなのか 分かんないけど…。」
春子「あの子には ここが 合ってるような気がするんです。 だから せめて 夏休みが終わるまで ここに いさせてあげようかなと思って。 お母さん…。 夏さん! 聞いてよ。」
夏「おめえさんは どうなんだ?」
春子「え?」
夏「東京と ここど どっちが好きだ?」
春子「そんなの決まってるじゃん。」
夏「どっちだ?」
春子「東京に決まってるじゃん。」
夏「…つう事は 東京にいる時の おめえは 本来の おめえなのが? おら 東京さ行った事もねえ。 ここさ生まれて 64年 こごがら 一歩も出た事ねえ。 袖が浜と北三陸の町以外 何も知らね。 だけど… ここが 一番いいっていう事だけは 知ってる。」