床屋
多美子「いつも どうも。 ありがとうございました! あっ…。」
明男「ただいま!」
典男「裏から入れって言ってっぺ! お客さん 来てんだぞ。」
明男「ごめんなさい。」
「相変わらず元気いいな。」
明男「あっ おっちゃん こんにちは!」
「うい。」
多美子「お帰り 明男。 校歌 うまく歌えたの?」
明男「うん! みんなに褒められた。 東京から来た有名人の話も面白かったよ。」
多美子「有名人?」
明男「校歌 作詞した人! うちの学校に 通ってたんだって。」
典男「へえ~。」
明男「その人ね 子どもの時は けんかばっかして 学校一の悪童って言われてたって。」
多美子「そんな悪童が作詞家になったの?」
明男「本当は けんかより 詩 書いたり 読んだりするのが好きだったんだって。 こきん… 何とかっつう。」
「『古今和歌集』か。」
明男「んだ! それ!」
「卒業生の話っつうのは面白えもんだよな。」
明男「卒業はしてねえって言ってた。 その人んち 魚屋さんで 借金あって 夜逃げしたんだって。」
典男「その人… 何つう名前だ?」
明男「むら… 何だっけ?」