喜多一
村野善治「それは心配ですね旦那」
三郎「ほら、言葉のあれもあっぺ?だからよー」
村野善治「男子たるもの、逞しく育ってほしいっスよね」
三郎「俺の若え頃みたいにな」
村野善治旦那さんも相当?」
三郎「勿論!向かってくる野郎はバッタバッタと!」
茂兵衛「三郎君、久しぶりだ」
三郎「はい」
村野善治「声小っちぇえ」
この人は権藤茂兵衛さんお母さんのお兄さんです。
県内でも有数の資産家で銀行を中心に色んな商売をしています。
茂兵衛「で?どうなんだ経営の方は」
まさ「まあ、まあまあで」
茂兵衛「毎日何十人も経営者を見ているがダメな奴はみんな一緒だな」
まさ「兄さん、わざわざそんなことを言いに?」
茂兵衛「俺は暇じゃねー」
まさ「じゃあ何?」
話しが終わり部屋を出る茂兵衛
茂兵衛「蓄音機にレジスターか、くだらん」
三郎「東北で2台目ですよ、見ててください。ん?あれ?」
茂兵衛「邪魔した」
三郎「兄さん、来る予定だったか今日?」
まさ「日銀にでも寄った帰りじゃない?」
三郎「あらかじめ来っときは言ってもらわねーと」
まさ「ごめんなさい、伝えておきます」
裕一が帰宅する
三郎「おめーその顔?」
甘えたい裕一でしたがお母さんは2歳年下の弟・浩二に付きっ切り。
ちなみに弟が生まれたお祝いは蓄音機でした
三郎「裕一、入るぞ?」
裕一「うん」
裕一「何?」
三郎「ああ、そうだ!勉強してるか?
裕一「うん、まあそれなりには」
三郎「そうか」
こんな時言葉に詰まるのはお父さんも一緒でした
三郎「あれだ、人生いろいろある。なかなか思い通りになんねえ、だから、何でもいい、夢中になるもん探せ!な?それがあれば生きていけっから」
裕一「お父さんは?お父さんは何?」
三郎「今はおめーの話しだよ、あるか?なんか?」
裕一「山、川」
三郎「山、川って、あれか?流れてる川か?」
裕一「うん、あれ見てっとほっとする」
三郎「なんでおめーそんな、もっと楽しい事」
裕一「しゃべんなくて済むから」
三郎「そうか、そうだ!新しいレコード買ったんだ舶来品だ、聞くか?」
裕一「いい」
部屋を出る三郎
そしてこの日、初めてお父さんは西洋音楽のレコードをかけました。
三郎「裕一?」
その音色は裕一の心に深く響き渡ったのです