そのことを音に伝える久志
音「応援歌か… 裕一さん やるかな~?」
久志「あいつ このままじゃ駄目になるよ。」
回想終了
音「というわけなの。」
裕一「久志が…。」
音「本当は 裕一さんの ちゃんと了承を得てから 来てもらおうと思っとったんだけど。」
裕一「あ~ いやいや…。 あの… 早稲田の応援歌とは こ…光栄です。」
田中「おお…。」
佐藤「ハハハハ…。」
田中「では お受け頂けるとですか?」
裕一「いや あの… 今 いろいろあって 自分の曲も作れずにいる状態で あの… ごめんなさい。」
田中「そこば どげんかして!」
一同「お願いします。」
裕一「あっ…。 ど… どうしよう?」
音「私は やるべきだと思う。」
裕一「どうして?」
音「だって…。」
回想
久志「早稲田の応援歌って 結構 偉い人が作ってて 小山田先生も名を連ねてる。」
回想終了
裕一「そ… そうなの?」
田中「第1応援歌です。」
音「先生と同じ土俵に立つってことでしょう? 名誉なことじゃん!」
裕一「し… 締め切りは?」
田中「10日後で お願いします!」
裕一「急ですね…。」
田中「秋の早慶戦が2週間後に迫っとうとです。 練習もせんといかんけん。 なにとぞ!」
田中「おい。」
佐藤「はい!」
裕一「うん? わ… 分かりました。 あの… や や… やります。 やります…。」
一同「うわ~!」
田中「先生~! 慶應の『若き血』ば 超えて下さい! 必ず!」
裕一「はい…。」圧がw
とはいえ… 裕一にも お仕事があるわけで。
裕一「ああっ あっ あっ… 廿日市さんは?」
杉山「こちらです。」
裕一「はい はい…。」
山藤♬『丘を越えて 行こうよ 小春の空は 麗らかに澄みて 嬉しいこころ 湧くは胸の泉よ 讃えよ わが青春を いざ聞け 遠く希望の鐘は鳴るよ』
廿日市「いいよ これ!また当たるよ! これ 売れちゃうよ! よかったですよね? これ。 いや~ 特に歌い出し! ♬『丘を越えて 行こうよ』」
裕一「廿日市さん… あの…」
廿日市「何か 心が躍るよね… あっ! いたの? 何?」
裕一「す… すいません あの… か… 書けませんでした。」
廿日市「はあ!?」
裕一「す… すいません!」
廿日市「まあ いいよ。 これが大ヒット間違いなしだから。」
裕一「『酒は涙が溜息が』とは全く違う 明るい曲ですね!」
廿日市「そう? どっちも分かりやすいよ。 君の作る曲より全然。」
裕一「ハハ…。」
廿日市「笑い事じゃないよ。」
裕一「じゃあ…。」
山藤「お疲れさまでした。」
廿日市「山藤君 よかったよ~! すばらしい歌声だった! 喉乾いたでしょ? 座って 座って。」
山藤「ありがとうございます。」
裕一「廿日市さん あの じゃあ 僕…。」
廿日市「あっ 彼ね 木枯先生と同時に契約した 古山よういち君。」
裕一「あっ… ゆういちです。」
廿日市「まだヒット曲はおろか 1年で 1枚も レコードを出せてないんだよ。 何か言ってやってよ。」
山藤「山藤太郎です。 頑張って下さい。」
裕一「あ… ありがとうございます。」
山藤「ご卒業は どちらですか?」
裕一「福島商業です。」
廿日市「彼はね 国際作曲コンクール …だったっけ? それで2等だったの。」
山藤「勉強は どちらで?」
裕一「独学です。」
廿日市「アハハハハ… 笑っちゃうよね 独学だって。ハハハハ…。 この山藤君はね 慶應義塾からの 東京音楽学校 声楽科 エリートだ。」
裕一「慶應から 東音ですか?」
山藤「はい。 どうしても 歌がやりたくて。」
裕一「何で こんなことしてるんですか?」
山藤「家庭の事情で お金が必要なんです。 なので… 山藤太郎も偽名です。」
裕一「あっ すいません… 余計なこと聞いてしまいまして。」
廿日市「えっ ちょっと待って。 今の質問 どういう意味?」
裕一「いや…。」
廿日市「ねえ…『何で こんなことを』って」
裕一「あっ いや…」
廿日市「ちょっと 古山君?」
裕一「あっ いや…。」
廿日市「返答によっちゃ 俺 怒るよ。」
裕一「違う あの… 変な意味じゃなくて…。」
廿日市「えっ? うん? うん?」
木枯「廿日市さん。」
廿日市「は~い 先生 どうしました~?」
木枯「ごはん 食べに行きませんか? おなか すきました。」
廿日市「いいですね! じゃあ 銀座 煉瓦堂の オムライスなんて いかがでしょう?」
木枯「いいですね~。」
廿日市「かしこまりました~。 ほら山藤君も一緒に行くよ。 ほら。」
木枯「あとで サロンにいて。」
裕一「う… うん。」
裕一「失礼します。」
小田「君。 新人?」
裕一「あっ はい。」
小田「君みたいな人 いっぱい見てきたよ。 己に こだわって 才能を生かせない人。」