居間
安隆「うん! これこれ! うん! この世の食いもんは うまいのん。」
音「あの世では 何 食べとるの?」
安隆「あの世のことは 閻魔様に 言っちゃいかんって言われとるだわ。」
音「ふ~ん。 あの世って怖い? 閻魔様は?」
安隆「怖くないよ。 閻魔様っつったって ただのジジイだし。」
音「よかった。」
安隆「どうして?」
音「うん? 釜ゆで地獄とか 舌抜き取られるとか心配した。」
安隆「フッ… 俺 そんな悪いことしとらんよ。 ハハハ。」
音「お父さん 優しかったもんね。」
安隆「うん… 実は… 助けた子 見てきた。」
回想
熊谷「お父さんが… 亡くなられた。」
熊谷「大阪で… 事故に巻き込まれた。 子どもを助けて 電車に はねられたらしい。」
回想終了
安隆「駅員さんになっとった。」
音「そっか… よかったね。」
安隆「すまん。 体が勝手に動いた。」
回想
音「お父さんは何で あたしたちを残して 人の子を助けたの? あたしたちより その子のことが大切だったの?」
光子「とっさの行動だったの。」
回想終了
音「今は誇らしいよ!」
安隆「フフッ… ありがとう。」
安隆「音。」
音「うん?」
安隆「歌手になる夢 諦めたんか?」
裕一「ただいま~!」
音「裕一さんだ。 あっ あっ あっ…。」
安隆「いやいや 大丈夫。 彼には見えんから。」
裕一「おなかすいた 音。 お~ おだんごだ! 珍しいね。 あれ? 何で2つあんの? これ。 誰か来てた?」
音「い…。」
裕一「うん?」
音「あっ… おだんご買ったら お父さんのこと思い出して 命日 もうすぐだし 何か お父さんにもって。」
裕一「そっか…。 音 ごめん。 おなかすいたから これっさ 食べていい?」
音「ええっ!?」
裕一「えっ? だ… 駄目? 何で? だって 余っ…。」
裕一「うん? 何?」
音「どうぞ。」
裕一「えっ いいの? 食べていいの? 本当に? やった。 頂きま~す。 あ~ 生き返る~! うまいな これ うん。」
裕一「ねえ 豊橋って 方向どっちだっけ? こっち? こっちか?」
裕一「こっち?」
裕一「お義父さん いっつも見守ってくれて 本当にありがとうございます。 おかげさまで 子宝に恵まれて 音さんと幸せに暮らしております。」
裕一「お義父さん 音さんを産んでくれて 本当にありがとうございます! 心から ご冥福お祈りしております。」
音「フフッ… ハハッ。」
裕一「何で笑うの? 何よ?」
音「アハハハ!」
裕一「怖… 怖いよ。 何で そんな笑ってんの?」
音「だって… アハハハハ!」
裕一「いや おだんご頂いたからさ。 お義父さん 本当にありがとうございました。」
音「アハハハ!」
裕一「これからも見守って下さい! お願いします。 よし… よいしょ… はあ…。」
音「あっ!」
裕一「何? だって食べていい…。 アハッ うまいな これ! アハハ! 着替えてくる。」
安隆「ハハハ…。」