梅「どうしたの? いつまでいるの?」
安隆「今日帰る。 閻魔様に怒られるからな。」
梅「そう…。」
安隆「結ちゃんの受賞作 読んだか?」
梅「読んだ。」
安隆「どうだ?」
梅「すごかった… すばらしかった。 まあ ただ…。」
安隆「ただ?」
梅「ううん 何でもない。」
安隆「梅… 自分の弱さを見せたくないんか? 幸い お父さんは あの世の人だ」
安隆「明日には この世におらん。 お父さんに 自分の正直な気持ち 教えてくれんか?」
梅「悔しい。」
安隆「どうして最初に褒めた?」
梅「だって 新人賞だよ?」
安隆「賞とか関係ない。 心の底から 結ちゃんの作品 認めとるんか? 負けを認めるってことは大切なことだ。」
安隆「負けを受け入れるから 人は成長したり 違うことに挑戦できるんだ。」
梅「お父さんは そういう経験あるん?」
安隆「ハハッ 岩城だ。 あいつには勝てんから 父さんは職人をやめて 経営に専念した。」
梅「へえ… そっか。 そんな すごいんだ。」
安隆「ず~っと うちに仕事があるのは あいつのおかげだ。」
梅「岩城さん… お母さんのこと 好きだよ。 再婚するって言ったら つらい?」
安隆「う~ん…。 お父さんは うれしい。 2人とも大好きだから フフッ。」
梅「フッ」
安隆「フフッ。」
梅「ハハハハハ…!」
安隆「えっ?」
梅「お父さんって… 何だろう… いいな。」
安隆「あっ… 何だよ~ 真面目な話をそらすな。」
梅「違うの。 分かったの。 分かったような気がした。 私 今まで 全てのことを 斜めから見過ぎとったかもしれん。」
梅「これからは まっすぐ生きてみる。 自分とか小説 まっすぐ表現してみる。 お父さん 見習って。」
安隆「俺? あっ… そうか? あ~ まあ… それならそれで。」
梅「お父さん ありがとう。」
安隆「梅… ごめんな。 頑張りん。」
梅「うん! お父さん あったかい。」
台所
光子「ごはん 一緒に食べてったらいいのに!」
安隆「食べとったら あの世に戻れんくなる。 仕事も子どもも… 大変だったろうな」
光子「ううん・・・ううん…。 あっという間だった。」
安隆「ありがとう。 もっと… お前たちと いたいけど…。 みんな それぞれ 幸せを見つけとって安心した。 じゃあな。」
光子「ありがとう…。 また あの世で。 フフッ。」
関内馬具の作業場
安隆「『再婚を許す』」
岩城「『おれは安隆さんといる おかみさんが好きなんです。』」