居間
(戸が開く音)
布美枝「ただいま ユキ姉ちゃんが来たよ!」
ユキエ「お邪魔します。 あれ? どげしたの? 難しい顔して。 何? その写真?」
源兵衛「布美枝 ちょっと 来てみぃ。」
布美枝「はい。」
源兵衛「この人に 会ってみるか?」
布美枝「え?」
源兵衛「米子(よなご)の知り合いが送ってきた。 その気があるなら 話を進めると 言っとるが どげだ?」
ユキエ「ひょっとして お見合い?」
布美枝「えっ?」
源兵衛「会ってみるか?」
布美枝「感じのええ人だね。」
源兵衛「うん。」
ユキエ「幾つかね?」
源兵衛「38だ。」
ユキエ「10歳も上か。 老けちょ~ね 初婚?」
源兵衛「うん。」
ユキエ「どこの人かね? 安来? 米子?」
源兵衛「実家は 鳥取の境港(さかいみなと)だが 今は 東京に住んどられるそうだ。」
布美枝「東京?」
ユキエ「フミちゃんを 東京に出すだかね?」
源兵衛「お前は 横から ごちゃごちゃ やかましいわ ちょっと黙っとれ。」
ミヤコ「お父さん あの事。」
源兵衛「ああ 分かっちょ~。 今 話すわ。 この写真では 分からんがな この人 戦争中 南方 行ってとって けがをしたげな。」
布美枝「はあ…。」
源兵衛「それで 左腕がなくなっとる。」
布美枝「え…。」
ユキエ「そげなら 10も上の片腕の人の所に 嫁に出すだかね?!」
源兵衛「お前は 黙っとれって。」
ユキエ「だども!」
ミヤコ「ユキエ!」
布美枝「お仕事は 何をしとられるの?」
源兵衛「漫画家だそうだ。 東京で 貸本漫画いうのを 描いちょ~げな。」
布美枝「貸本… 漫画?」
源兵衛「うん。 本名は 村井 茂だが 漫画は 別の名前で描いとる。 水木しげる いうげな。」
布美枝「水木… しげる。 ええよ。 私 この人に 会ってみてもええ。」
ユキエ「フミちゃん?」
<再びやって来た 縁談の相手は 思いも寄らない人物でした>
2階
(ミシンの音)
布美枝「片腕か…。 服の左袖 どげんなってるんだろう?」
縁側
ミヤコ「お父さん さっきの話ですけど…。」
源兵衛「ん?」
ミヤコ「何だか 布美枝が かわいそうな気がして。 あの子も ええ年だし 高望みする訳ではないですけど もうちっと 他にええ方が おるように 思いますけんね。 わざわざ 東京にやらんでも せめて この近くで。」
源兵衛「ミヤコ。」
ミヤコ「はい。」
源兵衛「布美枝に 写真撮るように 言っちょくだ。」
ミヤコ「えっ?」
源兵衛「決めたぞ。 この話 進めてもらうけんな。」
ミヤコ「お父さん…。」
<突然の この縁談に 源兵衛は 進めの号令をかけたのです>