休憩室
光男「現代漫画者の代理人と 連絡を とってみたんだが やっぱり状況は厳しそうだ。」
茂「そげか…。」
佐知子「回収できないとなると かなりの打撃ですね。」
茂「う~ん!」
布美枝「お兄さん いらっしゃい。」
雄一「ああ どうも。」
布美枝「こげな時間に珍しいですね。」
雄一「う~ん 俺も役員の1人として この一大事を 見過ごす訳には いかんからな。」
布美枝「一大事って 何ですか?」
雄一「あれ 布美枝さん 聞いとらんのか?」
茂「仕事のことだけん お前は 口 挟まんでええ。」
光男「知り合いの弁護士にも 聞いてみたんだが 全額回収は難しいなあ。」
雄一「おいおい!」
茂「よその仕事で 穴埋めするしかないか。」
雄一 光男「ああ…。」
茂「何しとる? 向こう 行っとれ。」
布美枝「はい…。」
台所
布美枝「何だろう? みんなして 深刻な顔して…。 私には 何も話してくれん。」
喜子「ただいま~!」
布美枝「あ~ お帰り。」
喜子「喜子ねえ 今日 先生に 褒められたんだよ。 『よく描けました』って。」
布美枝「何を?」
喜子「お父ちゃんの顔。 ほら!」
布美枝「ああ よう描けとるねえ。 あら? ひげが生えとる。 これ ちょっこし おかしいわ。 お父ちゃんに こげな ひげないよ。」
喜子「あれ? あっ お父ちゃんだ!」
茂「おう…。 ん? どげした?」
布美枝「喜子 幼稚園で お父ちゃんの顔 描いてきたんです。」
茂「う~ん。 ほお よう描けちょ~な うん。」
布美枝「けど 変なんです。 お父ちゃんが ひげ面になっとる。」
茂「まあ 絵は 好きなように 描けば ええんだ。 ひげを生やすとは 喜子は 想像力が豊だな。」
喜子「うん。」
布美枝「手 洗っておいで。」
喜子「は~い!」
茂「今日も 仕事 遅くなるけん 夜食の出前 頼むわ。」
布美枝「ほんなら 何か作りましょうか? 毎日 出前じゃ 飽きるでしょ?」
茂「いや 出前の方が パッと食べられて ええんだ。」
布美枝「そげですか…。」
客間
茂「ん 何だ これは。 よう出来とるなあ。」
布美枝「貴司が作ってくれたんです。 この間 来た時に 喜子が 頼んだの 覚えとってくれて。」
茂「あ~ そげか。 ああ それからな。」
布美枝「はい?」
茂「お茶は アシスタントが 入れちょ~けん いちいち持ってこんでも ええぞ。」
布美枝「え…。」
茂「お前は 家の事を やっちょれ。」
布美枝「よかったねえ。 ええの作ってもらって。」
喜子「うん。 叔父ちゃんに 『ありがとう』って言おう。」
(受話器を取る音)
喜子「もしもし 貴司叔父ちゃんですか? 鬼太郎ハウス ありがとう。」
布美枝「想像力か…。 そうなのかなあ。」
喜子「叔父ちゃん また来てね。」
布美枝「ねえ 喜子。」
喜子「な~に?」
布美枝「お父ちゃんの顔には ひげ あったっけ?」
喜子「え~っと…。」
布美枝「忘れても無理ないよね。 毎日 ちょっこししか会えんのだもん。」
喜子「うん!」
布美枝「お母ちゃんも お父ちゃんの顔 忘れてしまいそうだわ…。」
仕事部屋
茂「ここは もっと このキャラクターの…。」
<このところ 茂の仕事は 一段と増え 多忙を極めていました>
郁子「先生。 目線 頂いて もう一枚 お願いします。」
茂「ああ…。」
(シャッター音)