あらすじ
修平(風間杜夫)が若い女性を連れて銀座を歩いていたことをたまたま絹代(竹下景子)が聞きつけてしまい、絹代と修平の間にはぎくしゃくした雰囲気が続く。一方、布美枝(松下奈緒)と茂(向井理)の間にも、藍子(青谷優衣)の進路をめぐって行き違いが生じていた。
141ネタバレ
水木家
廊下
浦木「人が せっかく 親切で 知らせに来てやったというのに 真心の通じない男だねえ。」
回想
浦木「イトツの奴 年がいもなく 浮気しとるんじゃなかろうな。」
茂「まさか イカルの耳には 入っとらんだろうな?」
浦木「えっ それは もう…。」
布美枝「どげに恐ろしい事になるか 分かりませんよ。」
茂「絶対に言うなよ!」
浦木「わ 分かりました。」
回想終了
浦木「しかし イトツの老いらくの恋か…。 これは 面白くなってきたぞ。」
絹代「老いらくの恋とは 何の話ですか?」
浦木「イカルだ…! あ 痛!」
絹代「全部 話してもらいますけんね!」
浦木「何も知らんです。」
(絹代の気合い)
浦木「あ いや はい!」
すずらん商店街
浦木「まずい事になったなあ。 俺は 知らないぞっと…。 しばらく あの家には 近寄らん事にしよう…。」
水木家
両親の部屋
絹代「やけに減っとると思ったら。 香水 振りかけて 誰と会っとるんだか…。 ふん! ばかばかしい!」
台所
茂「まさか イトツが なあ…。」
布美枝「え?」
茂「いや。 そげなはずはない。 イタチのでたらめに決まっとる。」
布美枝「はい。 でたらめにも ほどがあります。 お父さんに限って!」
茂「ある訳ないな。 しかし イトツの美人好きは 昔からだけんなあ…。」
布美枝「松川さんにも ご執心でしたし…。 お父ちゃん 何 言っとるんですか!」
茂「ありえんな。 うん ありえん。」
布美枝「当たり前ですよ。 もうっ! けど… 近頃 急に お元気なられましたよね。」
茂「うむ。」
布美枝「この前も 庭で体操しとられたし。 今日は おめかしして お出かけしてるし。」
茂「う~む。」
布美枝「あ そげいえば… この間 電話で ヒソヒソ 話しとられました。」
茂「ん?」
回想
修平「まずは 芝居を見て… ああ それから お茶でも飲みながら ゆっくり…。 あ ほんなら 詳しい事は また 会った時に。」
(受話器を置く音)
布美枝「どげしました?」
修平「いや 別に。」
(修平の口笛)
回想終了
茂「電話の相手は 誰だ?」
布美枝「さあ…。 お年を考えたって… やっぱり ありえないですよ。」
茂「いや それは 分からんぞ ゲーテの例があるけんな。」
布美枝「ゲーテが どげしました?」
茂「ゲーテは 70代半ば過ぎてから 10代の娘に 本気で 結婚 申し込んどる。」
布美枝「ええっ!」
茂「これは 分からんな…。 おい お前 ちょっこし イトツに聞いてみろ。」
布美枝「何て聞くんですか?」
茂「それは もう ズバッと。」
布美枝「嫌ですよ 私。 お父ちゃんが聞いて下さい。」
茂「そげな事 親に聞けるか。 お前が聞け。」
布美枝「嫌ですってば。」
茂「ええけん 聞け!」
布美枝「お父ちゃん ずるい。」
藍子「何 もめてんの?」
布美枝「お帰り。 今日は 早いのね。」
藍子「だって おばあちゃん達と 一緒に ご飯 食べる日でしょう。」
布美枝「ああ よりによって こげな日に…。」
客間
修平「松島屋の与兵衛がええんだ。 親の金をくすねて 女遊びする放とう息子を よう演じとった。」
絹代「女遊びねえ…。」
修平「あげな男と不義を疑われたら 油屋の女房も気の毒だもんだ。」
喜子「不義って 何?」
修平「今で いう 浮気だな。」
絹代「浮気ねえ…。」
修平「お前やち 『女殺油地獄』も 見た事ないのか?」
喜子「ない。 変なタイトルだね。」
修平「近松の傑作だわ。 映画にも 何度も なった。 昔のは まだ サイレントで うちの映画館でも かけた事 あったな。 なあ?」
絹代「知りませんね。」
修平「お前は 芸術に 興味を示さんだけん。」
布美枝「喜子は サイレント映画なんて 知らんでしょう?」
喜子「うん。 知らない。」
修平「知らんのか。 音のない映画の事だわ。 昔は 映画には せりふも音楽も 入っとらんだったんだ。」
喜子「それじゃ 話が分からないじゃない。」
修平「だけん 活動弁士というのがおって 画面に合わせて せりふや あらすじを 面白おかしく語ってくれたんだわ。 なあ。」
絹代「さあ。 私は 芸術の事は 分か~ませんけん。」
修平「おい やけに突っかかるな。 たまに 芝居に行ったぐらいで 嫌な顔 するな!」
茂「おい イカルに 何か言ったのか?」
布美枝「私は 何も…。」
修平「仏頂面して…。」
絹代「昔から この顔ですよ。 60年 一緒におって 今 気づいたんですか?」
修平「むむっ!」
布美枝「喜子 そげいえば あれ どげしたの?」
喜子「何?」
布美枝「進路希望の紙 もう出した?」
喜子「まだ。 今週いっぱいが締め切りだから とりあえず 短大希望って書いて 出しとく。」
布美枝「そう…。」
茂「まあ 適当に書いちょけ。 いずれは お父ちゃんの仕事でも 手伝ったら ええんだけん。」
喜子「私 漫画 描けないよ。」
茂「ううん。 絵を描く以外にも いろいろと やる事はあるが。 藍子もだ。 就職先がなくても 心配せんで ええぞ。」
藍子「私は いいよ。 教員採用試験 受けるから。」
2人「え?」
喜子「お姉ちゃん そんな事 いつ決めたの?」
藍子「前から考えてたよ。」
布美枝「あら そげなの?」
喜子「え~っ 無理なんじゃないの お姉ちゃんには。」
藍子「嫌な事 言わないでよ。」
茂「おい そげな話 聞いとらんぞ。」
藍子「うん。 だから 今 話した。」
茂「お前 知っとったのか?」
布美枝「私も 今 初めて聞きました。」
茂「藍子。 そげん大事なことを 相談もせずに勝手に決めとるのか。」
藍子「え 何? お父ちゃん 反対なの? 学校の先生だよ。 何が いけないの?」
修平「茂 先生 大いに結構だねか。 堅い商売で 間違いがない。」
絹代「お父さんは 堅い商売を バカにしとったでしょう。」
修平「ええ加減にせえ。 なして さっきから わしに突っかかるんだ!」
絹代「ふん!」
布美枝「どげしよう…。」
<修平のデート疑惑の上に 藍子の進路発言が重なって その夜の食卓は なんとも決まずいものに なってしまいました>
修平「飯が まずい。」
<それから 数日 経っても…>