台所
喜子「2人とも楽しそう。」
ミヤコ「お父さん 茂さんと碁を打つの 楽しみにしてたんだよ。」
布美枝「随分 昔に 約束したけん。」
回想
源兵衛「あんた 碁は打つか?」
茂「ええ。」
源兵衛「ほんなら 今度 来た時でも 一遍 手合わせを願うかな。」
回想終了
客間
源兵衛「これで どうだ。」
茂「ああ…!」
源兵衛「無理だな これは 待たんぞ 待たんぞ!」
茂「まだ分かりませんぞ まだ分からんぞ!」
源兵衛「アッハハハ!」
<その翌日…>
深大寺
源兵衛「ここは 昔ながらの ええ寺だなあ。」
ミヤコ「う~ん。 東京にも こげな所が あるんですねえ。」
布美枝「フフフッ。」
ミヤコ「な~に?」
布美枝「私も最初に来た時 同じ事 言った。」
ミヤコ「そげかね。」
源兵衛「厠 借りてくるわ。」
ミヤコ「うん。」
(鐘の音)
ミヤコ「藍子。」
藍子「うん。」
ミヤコ「あんた 『安来節』知っちょ~かね?」
藍子「『安来千軒 名の出たところ』っていうんでしょ。」
喜子「『アラ エッサッサー』だよね。」
ミヤコ「う~ん。 『安来節』には 歌詞が ようけ あるんだよ。 近頃 おじいちゃんが よう歌っとる歌があってねえ。」
喜子「どういうの?」
ミヤコ「『千里も飛ぶ様な虎の子が欲しや』。」
喜子「どういう意味?」
ミヤコ「虎は 我が子のために 『一日に千里を行って 千里を戻る』 いう言い伝えが あ~だわ。」
喜子「千里って… 4,000キロ?!」
布美枝「うん。」
ミヤコ「布美枝と暁子。 遠い東京におるでしょう。 2人とも幸せにやっとるけんね。 結婚を決めた おじいちゃんの目は 間違っては おらんだったよ。」
藍子「うん。」
ミヤコ「でもね 心配なんだわ。 元気でやっとるか。 今度は いつ 顔 見られるか…。 虎のように 千里を行ったり 来たりできたら ええだけどね。」
布美枝「お母さん…。」
ミヤコ「おじいちゃんね 藍子を遠くにやりたくない 茂さんの気持ちが分かって それで… ちょっこし 余計な口出ししたんだわ。 すまんだったね…。」
源兵衛「おい そろそろ行くか。」
ミヤコ「はい。」
藍子「ねえ おじいちゃん。 また 遊び来てね。」
源兵衛「あっ…! ほんなら 桜の頃にでも また来てみるか。 なあ?」
ミヤコ「ええ!」
源兵衛「そこの土産物屋 のぞいてみるか?」
ミヤコ「はい。」
布美枝「先行っとって。 お金払っとくけん。」
源兵衛「ああ ほんなら ゆっくり歩いとるぞ ハハッ!」
ミヤコ「すまんね。」
源兵衛「お~お~! きをつけろよ。」
ミヤコ「はい。」
藍子「おばあちゃん… 黙って おじいちゃんに 従ってるように見えて 押さえるとこは 押さえてるね。」
布美枝「ん?」
喜子「ゆうべのひと言 お姉ちゃんに話したの。 『お父さん 悪い手でしたね』って。」
布美枝「おばあちゃんは 余計な事 言わんで 人の気持ちが分かる人だけん。」
藍子「似てるよね お母ちゃんと。」
布美枝「え~っ?」
喜子「うん 似てる似てる。」
藍子「だから お父ちゃんと お母ちゃんは 仲よくやっていけるんだ。」
布美枝「藍子…。」
喜子「やっぱり おじいちゃんの目に 狂いはなかったか。 ね!」
(2人の笑い声)
布美枝「もう 2人とも 親をからかって!」
(3人の笑い声)
布美枝「ほら はい! 行きますよ!」
<娘達の言葉は うれしいけれど ちょっと てれくさくもある 布美枝でした>