汽車
車掌「お客さん お客さん 切符を拝…。 うわっ!」
<どうにか こうにか 『急行出雲』に飛び乗り 故郷の境港へと向かったのです>
鳥取県 境港市
村井家
絹代「ええ背広 持っとったんだねぇ!」
茂「ああ 生地は 舶来だが。」
絹代「へえ~ 舶来? ハハハ! Y murai…。 Y? 何だ 雄一のでねえか!」
茂「(煎餅をかじる音)」
修平「お前 いかに煎餅とはいえ もうちっと 静かに食べられんもんか?」
茂「音も煎餅の味のうちだわ。」
修平「なるほどな うまい事 言うな。(煎餅をかじる音) いけん! わしも年だ。 お前のように いい音が出ん。」
(2人の笑い声)
絹代「あんたら ええ加減にして! だらず親子だわ! しげさん 明日の見合いでは 行儀ようしとりなさいよ! ズルズル ゾロゾロ バリバリと 音を立てて 物を食べたらいけん。」
茂「分かっちょ~よ。」
絹代「ええか 1週間後には 必ず嫁を連れて 東京へ 帰ってもらうんだけんね。」
茂「連れて帰れって むちゃ言うなよ。」
絹代「あんたが『どげしても 1週間しかおられん 度々は戻れん』と言うけん 急ぎの段取りをつけたんだがね。」
茂「こっちは 締め切りがあるけん。」
修平「茂 ひとまず 黙って聞け! 母さんの頭の中には お前の婚礼までのシナリオが すっかり 出来上がっとるぞ。」
茂「うわっ!」
絹代「明日は 友引 見合いには ええ日だわ。 まず ここで うまくやらんといけんよ。」
茂「ああ。」
絹代「あんたは おかしな事をしゃべる 癖があるけん おとなしに しとりなさい あんまり口をきいたら いけん。」
修平「話は わしが担当する。 しっかり アピールしてやるけん 任せちょけ!」
茂「ああ。」
絹代「あんたが 相手の娘を気に入ったら 仲人さんには その場で 結婚の話を進めてもらうけんね!」
茂「ええっ! その場で?」
絹代「そげだ。 躊躇してる暇はね! 28日は 大安。 結納は どげしても ここで済ませんとね! 30日は 先勝。 『先んずれば すなわち勝つ』で 急ぐには 吉日だけん 結婚式は この日に挙げる。」
茂「はあ~ がいに早いなあ!」
修平「コマ落としの映画を 見るがごとしだ。」
茂「けど そげに急に 式が挙げられるもんだろうか?」
修平「式場は 既に 母さんが予約しておる。」
茂「ええっ!」
絹代「最後のチャンスかもしれん。 しげさん 気張りなさいよ! うん!」
<境港で こんな作戦会議が 開かれているとは知らずに 布美枝は 見合いを明日に控え 期待と不安の夜を 過ごしていたのでした>