富田書房
鈴木「どうも 申し訳 ありませんでした! けっ…! チッ!(ため息)」
富田「また 文句の電話か?」
鈴木「はい。 『届いた戦艦の模型が あまりにもチャチだ! 返品するから 金返せ!』って。」
富田「ふん 冗談じゃないよ!」
鈴木「それから これ。」
富田「ん? 何だい この請求書?」
鈴木「模型の会社からです。」
富田「あ~ おい! こんなに作ったのか? これ! 注文は この半分も来とらんぞ。」
鈴木「安くあげるために ロット増やしたじゃないですか! 社長と浦木さんとで。」
富田「いや! くそ~ わっ! 本は 返品されるし 模型は 売れないし。 ええ! このままじゃ うちは 大損害だろが! 浦木は どうしたんだ?」
鈴木「いや それは…。」
富田「浦木を呼びなさい! 浦木を ここへ呼べ! 浦木を呼んでこい!」
鈴木「はっ はい!」
富田「まったく! 浦木め~!」
水木家
仕事部屋
茂「墓場に 地獄の入口があって…。 そこから…。」
<戦記物の漫画を描く合間 茂は 時折 発表する当てもない 『墓場鬼太郎』の続きを 考えていました>
茂「地獄の入口…。」
布美枝「あ もう 切手がない。 失礼します。 買い物に行ってきます。」
茂「この墓場に… 地獄 地獄…。」
布美枝「また 鬼太郎の事 考えとる。」
玄関前
布美枝「あげに怖い話 あの人の どこから出てくるんだろう?」
<いつもの飄々として 朗らかな茂と 『鬼太郎』の不気味な世界。 布美枝には この2つが どうしても 結び付きません>
鈴木「あっ! 水木さんの? 水木さん いますよね! まさか 逃げてませんよね~!」
(犬のほえる声)
居間
茂「えっ 浦木が おらん?!」
鈴木「もう何日も前から 連絡が とれないんですよ!」
茂「うちにも しばらく 顔 見せてませんよ。 来とらんよな?」
布美枝「はい。」
鈴木「弱ったなあ! このままでは 私も クビかもしれない。」
茂「どげしました? 『少年戦記』は そこそこ うまく いっとるはずですが。」
布美枝「会報も続いておりますし 読者からの手紙も 毎日のように来とりますよ。」
鈴木「それで! うちも思い切って 発行部数 増やしたんですよ! ところが売れない! 取り次ぎから どっと戻ってきました。」
2人「え~っ!」
鈴木「部数 増やした分 まるまる 返品です~!」
布美枝「そんな…。」
回想
富田「会員様に受けても 売れ行きは ちっとも伸びない。 こういうのを 『マニア受け』って言うんだよ! くそ~っ! ああ~! ああ~…。」
回想終了
鈴木「通信販売の模型も さっぱりで もうかるどころか 元も取れない有様です! チャチなんですよ。 これじゃ いっぺん買った人は 二度と買いません。 浦木さん 利ざやを稼ごうとして 原価を安く叩いたようで。」
茂「あいつ また こずるい事を。」
鈴木「対応策を話し合いたくても 浦木さん 行方知れずだし!」
茂「あいつ 逃げたな…。」
布美枝「えっ!」
鈴木「『水木さんの知り合いだから 信用したのに どうしてくれるのか』と 社長 カンカンなんです!」
布美枝「え~っ!」
<『少年戦記の会』が大赤字とは 思わぬ成り行きに 言葉もない 茂と布美枝でした>