連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第3話「ふるさとは安来」

2階

布美枝「私 ほんとに言ってないけん。」

ユキエ「分かっちょ。 はい リボン。 黙っててくれたお礼。」

布美枝「映画に行ってきたかね?」

ユキエ「そげだよ。」

布美枝「お父さんに叱られても 映画 見たかったかね?」

ユキエ「顔色うかがっちょったら 何もできん。 でも 今日の映画は 戦争もので つまらんかったな。 私の一番は 去年見た これ。」

布美枝「うわ~。 きれ~な人。」

ユキエ「デートリッヒだが。 キャバレーの歌姫で 兵隊さんと恋をするんだよ。 この兵隊さんは ゲートー・クーパー。 ええ男でしょう。」

布美枝「『モ ロ ツ コ』って何?」

ユキエ「モロッコ。 外国。 ず~っと砂漠が続いとるとこ。 デートリッヒは クーパーを追って 町を飛び出していくんだわ。 裸足で 砂漠を どこまでも歩いて。 あ~ 情熱的だなあ。」

♬~(太鼓)

暁子「情熱もええけど 人目に立つ事は せんでね。」

布美枝「アキ姉ちゃん お帰り。」

暁子「ただいま。 あんたの素行が悪いと 姉の私が 学校で立場が なくな~だけん。」

<長女の暁子は 女学校を出た後 教員をしていました。 教員なら 工場に動員されずに 済むと源兵衛が考えたからです。 工場で働く娘達の中には 厳しい労働のために 体を壊す者も 少なくありませんでした>

暁子「派手は事して 噂になると 結局 自分が嫌な思いするんだよ。」

ユキエ「分かっちょ。」

暁子「それだって 敵性映画でないかね。 得意げに見せたら いけん。」

ユキエ「あれもダメ これもダメで 息が詰ま~わ…。 あ~あ どっか 遠くに行きたいなあ。」

布美枝「遠くって?」

ユキエ「モロッコ。」

布美枝「え~っ?」

暁子「バカな事 言っちょ~わ。」

ユキエ「行ってみたいなあ…。」

<父に叱られても 少しも めげず 遠い世界への憧れを語る ユキエが 布美枝には まぶしく見えました>

リビング

布美枝「何しちょ~の? きゃっ!」

哲也「お面 作っとるんだ。」

貴司「盆踊りで かぶるんだぞ。」

布美枝「すごい顔 怖い。」

哲也「モデルがおるけんな。」

哲也 貴司「お父さんの顔!」

回想

源兵衛「この だらず! だらず!」

回想終了

布美枝「似ちょ!」

哲也「これで 子供踊りの1等賞だ。 なあ 貴司。」

貴司「うん!」

回想

チヨ子「絶対 1等 取ろうな!」

回想終了

布美枝「1等か…。」

回想

ヒロシ「電信柱は その辺に 突っ立っとれ。」

(男の子達の笑い声)

回想終了

布美枝「やっぱり やめとこう。」

<笑われるくらいなら 大好きな 盆踊りを 諦める方がいい。 布美枝は そう思っていました>

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