布美枝「太一君は 来てくれんし お父さんまで おらんようになるし。 あれ? もう戻っとる。 お父さん 喫茶店で待っとってって 言ったのに。 ん? どげしたの?」
源兵衛「お前… わしを だましとったんだな。」
布美枝「え?」
源兵衛「さっきの客の行列 あれは 景品で釣った サクラでな~か! だらずが! つまらん事で 客を集めて 親の目をごまかすとは どげな了見だ!」
布美枝「お父さん 違うの これには 訳があって。」
源兵衛「ええ事ばかり 手紙に書いてよこしても そげに うまくいっとらん事ぐらい 分かっとったわ。 親の目は 節穴ではな~ぞ!」
布美枝「はい。」
源兵衛「一生懸命 働いて それでも 貧乏なら 堂々と 貧乏しとったら ええんだ! それを 周りの人まで巻き込んで ええふうに見せようとする お前やちの考えが わしは 気に入らん!」
布美枝「すんません。」
美智子「お父さん 待って下さい。 違うんですよ。 このサービス券は 私が勝手に つけたものなんです。」
源兵衛「何ですと?」
美智子「本当に申し訳ありません。 無理を言って 先生に来て頂いたんで 一人でも多く お客さんを集めたくて。」
キヨ「そうなんですよ 悪いのは うちですから。」
戌井「それを言ったら そもそも この会をやろうと言いだしたのは 僕な訳で…。」
源兵衛「あんたは 何だ?」
戌井「戌井と言います 漫画家仲間の。」
源兵衛「漫画家仲間?」
戌井「はい。」
源兵衛「あ! さっきの出版社の社長 あの男 漫画の事を 大いに褒めとったが ほんなら あれも芝居か?」
布美枝「お父さん 何 言うの!」
戌井「深沢さんは この会を知って わざわざ 駆けつけてくれたんですよ!」
源兵衛「あ~っ! わしは もう 何を信用していいか 分からんわ! 茂さん。」
茂「は…。」
源兵衛「あんたは もっと 堂々とした男だと思っとった。 娘が 何を頼んだか知らんが こげな小細工に 手を貸すとは。」
茂「どうも すまん事しまして。」
源兵衛「ええ男に 嫁がせたと思うとったが わしの間違いだったかのう。」
布美枝「そげな事 言わんで。」
源兵衛「ん?」
布美枝「お父さんは 何も知らんけん そげなふうに思うんだわ。」
源兵衛「何?」
布美枝「うちの人は 小細工なんかせんですよ。 何 言われても いつも堂々と 自分の好きな漫画に打ち込んどる。 私は よう知っとります。 夫婦ですけん。 うちの人が 精魂込めて描いとるとこ 一番近くで見とるんですけん! 間違いだなんて 言わんでごしない。 うちの人は 本物の漫画家ですけん!」