布美枝「私… 恨んどったんです。」
茂「え?」
布美枝「仕事部屋には 入れてもらえんし 知らん女の人は 入れるのにって。 」
茂「だらっ。 何を言っとる。 どげしたら 女の読者に受けるか 悩んどるとこに 天の助けか 少女漫画家が現れたんだ。」
布美枝「すんません。 けど 名前まで変えるなんて…。」
茂「う~ん あげな事は かまわんのだ。」
布美枝「…え?」
茂「名前を変えた方が売れるなら 変えたら ええ。 それも 作戦のうちだ。」
布美枝「作戦?」
茂「うん。 食っていくための作戦だよ。 ほら プロレスに おるだろう。 覆面 被って 試合しとるレスラー。」
布美枝「はい。」
茂「覆面さえ替えれば 何度でも 何度でも 戦える。 それと一緒だ。 名前を変えても 絵を描いて 生きていくんは変わらんのだけん。 それで ええんだ。 あ いっその事 もっと しゃれたペンネームを 考えておくか。」
布美枝「え?」
茂「水木洋子というのは 間に合わせで あ~ 2度は 使えんけんな。」
布美枝「そげですね。」
茂「うん。 あんた 何か考えろ。」
布美枝「分かりません 私には。」
茂「ほう~ なら あんたの名前で描こうかな。」
布美枝「ダメです。 それは。」
茂「嫌なら 何か考えろ。」
布美枝「え~っ。 ほんなら… テツ ポチ ハチ!」
茂「だら! 犬の名前考えて どげする。」
布美枝「あ そうですね。」
茂「テツって…。 あ! ごちゃごちゃ言っとって 砂糖 幾つ入れたか 分からなくなった。」
布美枝「あ 入れすぎ!」
茂「ほい 出来たぞ!」
布美枝「うん おいしい。」
茂「うまいな。」
(戸の開く音)
布美枝「何だろう?」
茂「誰か来たのか?」