連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第52話「私、働きます」

居間

茂「おかしいなあ。 熱なんぞ めったに出んのだが。」

布美枝「ご飯も食べずに 徹夜するからです。 布団 敷きますけん 休んで下さい。」

茂「これを届けんと いかん。 遅れると 金がもらえなくなる。」

布美枝「私が届けてきます。」

茂「ええ! これは自分で届ける。」

布美枝「何 言ってるんですか! 熱が あるのに。」

茂「うるさいなあ 大丈夫だ。 あれ おかしいなあ?!」

布美枝「ほら やっぱり 無理じゃないですか。 原稿料は 私が ちゃんと 頂いています。 富田書房の事も ありますけん あの要領で やれば。」

茂「あんたには任せられん。」

布美枝「え?」

茂「やっぱり 俺が行く。」

布美枝「ちっとは 私の事も 信用して下さい。 少しは 信じて 任せてごしなさい。 素人ですけん 絵の お手伝いは できんかも しれません。 けど お使いくらいなら ちゃんとできます! 役に立ちたいんです …女房ですけん。」

茂「嫌な思い するかもしれんぞ。」

布美枝「覚悟して行ってきます。」

茂「現金で 1万円。 原稿と引き換えに もらう約束になっとる。 頼んだぞ。」

布美枝「…はい!」

春田図書出版

春田「はい はい。 まあ 一応 体裁は整ってるか。 ハッハ…。 やっぱ 古くさいな 旦那の漫画。 いや いや 奥さんも大変でしょう。 生活 大変でしょ。 食べていけないしょう。 何か やってんの? 内職とか。」

布美枝「いえ…。」

春田「え? 何も やってないの! あららら。 のんきだねえ のんきだなあ。 うちのかみさんなんかさ 毎日 働いてるよ 赤ん坊 背負って。」

春田「夫婦で一生懸命 働いてますよ 今 貸本業界は厳しいですからね。 これも また 売れないんだろうなあ…。 こんな事 奥さんに言っても 始まんないね。 え~と…。 はい ご苦労さん。 受取 書いて。 えっ あの…。」

春田「何?」

布美枝「1万円 頂いてくるように 申しておりました。」

春田「ん? 何の話?」

布美枝「そういう約束だと 主人から聞いております。」

春田「約束… そんな約束してないけど。」

布美枝「でも…。」

春田「うちはね 初めての人は みんな この額で やってもらってんの。 新人料金。」

布美枝「新人って… 困ります。」

春田「お宅の旦那が 『どうしても 描きたい』って言うから こっちは 人助けのつもりで 仕事を お願いしたの。」

布美枝「けど…。」

春田「え…。 あ~ もういい。 分かった。 はい。」

布美枝「あ あの…。」

春田「不服だったら 持って帰って下さいね! あ…。」

布美枝「水木洋子? これ うちの人の漫画じゃない…。」

春田「あ 聞いてなかったんだ。 旦那が 『少女漫画でも 描きたい』って言うんだけどさ 水木しげるって名前じゃ 売れないじゃん。 それじゃ困るから 別の名前にしてもらったの。 だから 新人と一緒。 水木洋子なんて 誰も知らないっしょ。」

神社

(子供達の声)

母親「すいません!」

子供「おばちゃん どうしたの?」

母親「ぬれますよ。」

布美枝「あの人…。 こんな思いで… 仕事しとったんだ。 こんな つらい思いして…。 仕事しとったんだ…。」

<茂が どれほどの屈辱に耐えながら 漫画を 描いてきたのかと思うと やりきれない思いが 込み上げてくるのでした>

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