営業中
靖代「今 マッサージのサービス させてもらってるんですよ。」
主婦「悪いけど 出かけるとこだから。」
靖代「あら 奥さん ちょうどよかった。 お出かけ前に お手入れしていきましょうよ。」
主婦「でも…。」
靖代「今日はね セールスは いたしません。 お試しだけ。 ね いいでしょう? 奥様!」
主婦「それじゃ… ちょっとだけ お願いしようかしら。」
靖代「そうこなくっちゃ。」
ロザンヌ化粧品営業所
靖代「ただいま帰りました。」
ロザンヌレディ「お疲れさまです。」
靖代「最初は とにかく 顔を つなぐ事よ。」
布美枝「はい。」
靖代「断られて引き下がってたんじゃ 一つも売れやしない。 かといって 押しが強すぎても 嫌われる。 その加減が難しいのよね。」
布美枝「はい。」
靖代「…ねえ そんな大変なの?」
布美枝「え?」
靖代「あ どうも お疲れさまです。」
靖代「いやさ~ あんたみたいな おとなしい子が 『セールスやりたい』 なんて言いだすから よっぽど困ってるんじゃないかと 思って ここ 紹介はしたんだけど… ほんとに いいの?」
布美枝「この年になって 仕事させてくれるとこ そうないですけん。」
靖代「そりゃそうだ。 フフフフ…。 所長も言ってたけど 確かに あんたみたいな人の方が セールスレディーには 向いてるのかもしれないね。」
布美枝「そうでしょうか。」
靖代「あたしゃ 長年 風呂屋の番台に座って 人間 見てきたんだもの。 これでもね ちょっとは 人を見る目 あるつもり。 ウフフフフ…。 あんたはさ いざっていう時 力を出す人間だと思うよ。」
布美枝「靖代さん…。」
靖代「ま やってごらん!」
布美枝「はい。」
営業中
靖代「奥さん お肌 若いわ!」
美佐子「お上手 言っちゃって。」
靖代「お世辞じゃありませんよ。 私は 長年 風呂屋の番台座って ひと様の裸 見て来たんですからね。 これでもね 肌の善しあし 見抜く目は 持ってるつもり。」
(2人の笑い声)
布美枝「さっきも聞いた…。」
美佐子「ああ ご飯 炊きあがったみたい。」
靖代「あら 奥さんとこ 自動炊飯器? あれ 便利なのよねえ。」
美佐子「ちょっと いい? ご飯 おひつに移しちゃうから。」
靖代「もうすぐ終わりますよ。」
布美枝「私 やりましょうか。」
美佐子「悪いわね。 じゃ そこに おひつあるから お願い。」
布美枝「はい。」
靖代「奥さん 今度からね この人回ってきますから ごひいきにしてあげて下さいね。 ほんとに 奥さん お肌 若いわ!」
美佐子「いいえ。」
靖代「このマッサージ続けてたらね 二十なんて すぐよ。」
布美枝「ちょっと すみません…。」
靖代「え?」
靖代「ね どうしたの?」
布美枝「気持ち悪くなって…。 緊張しすぎたんだと思います。」
靖代「あらら 困ったわね。」
布美枝「今朝 食べたものが 悪かったのかな…。」
靖代「ね… もしかしてさ… おめでたじゃないの? できたんじゃない? 赤ちゃん!」
布美枝「えっ?!」
靖代「フフフ…。 お医者さん 行ってといで。」
<暮らしのために働きに出ようと 一歩踏み出したやさき… 布美枝は また 人生の転換点に ぶつかる事になったのです>