水木家
仕事部屋
<茂は あちこちの出版社を回って 注文を取り 猛烈な勢いで描き続けましたが 原稿料は ますます安く 暮らしは 厳しくなる一方でした>
2階
回想
ミヤコ「青海波の波の模様には 日々の暮らしが 静かな海のように いつまでも続く いう意味があんだよ。」
回想終了
居間
布美枝「あの… ちょっと ええですか。」
茂「ん?」
布美枝「これ 預けてきてもらえんでしょうか? そんなに ええもんはないんですが…。」
茂「これは ダメだ。」
布美枝「着物 預かってもらえませんか?」
茂「いや…。 原稿料の前借りを頼んでみる。 これは しまっとけ。」
布美枝「けど 私 今は これですし 当分 着られません。 持っとっても タンスの肥やしです。 あなた 前に 『質屋さんに 預けた物は 必ず 請け出す。 一遍も流した事ない』って 言ってましたよね。」
茂「ああ。」
布美枝「ほんなら これも 着る用事ができるまで 預けといて下さい。 しばらくの間だけ。」
茂「ほんなら ちょっこし預けるか。」
布美枝「はい。」
茂「着物と帯と…。 あれ? 何か 挟まっとるぞ。」
布美枝「挟んどいて下さい。 おまじないですけん。」
茂「おまじない? 『立ち別れ 因幡の山の峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む』。」
布美枝「早こと戻ってくる おまじないです。」
茂「え?」
布美枝「あなたも 何でも預ける時は このおまじない 紙に書いて 貼っといたら ええですよ。」
茂「何を言っとるんだ?」
布美枝「え?」
茂「これは 迷い猫が戻ってくる おまじないだな~か!」
布美枝「あら! 猫にしか効かんですかね? 何にでも効くと 思っとりましたけん。」
茂「ハハハ。 まあ 効くかもしれんな。」
布美枝「ええ。 効きますよ 信じる気持ちの問題ですけん。」
茂「うん なかなか 達筆だな。」
布美枝「嫌だ。 もう!」
2階
布美枝「これ… 預けたら 少しは 足しになるけど。」
回想
登志「『紅のサンゴ玉は 良縁のお守りだ』言ってな。 よいご縁がありますように。」
回想終了
布美枝「あんたが女の子なら お嫁に行く時に 渡さんとね。」