茂「な? うまいだろう。」
布美枝「甘いですね… 口の中で とろけるみたいだわ。」
<この頃 バナナは とても高価で ふだんは なかなか口にできない 憧れの果物だったのです>
茂「これが100円とは まさしく天の助けだな。」
布美枝「知らなかったなあ 茶色くなったバナナが こんなに おいしいとは…。」
茂「バナナの事なら 果物屋のおやじより 俺の方が 詳しいわ。 戦争中 南方で さんざん食ったけんなあ。」
布美枝「ええ。」
茂「バナナ パパイア 紫イモ…。 現地の人と 一緒に よう食ったもんだ。」
布美枝「現地の人と一緒に?」
茂「ああ。 腕を やられた後な 前線を退いて 作業班に入っとったんだが その時 現地の人と仲よくなって 集落に遊びに行っとったんだ。」
布美枝「そげな事して 叱られんのですか?」
茂「そりゃもう 見つかるたんびに どなられて ビンタの嵐だ。」
布美枝「ビンタの嵐!」
茂「軍隊という所は やたら 人を殴るけんなあ。」
布美枝「ああ 恐ろしい…。」
茂「南方の村の人の暮らし 楽しそうだったなあ! みんな優しい ええ人達で。 ある時な マラリアが再発して 40度を超える熱が 続いた事があったんだが…。」
回想
兵士「おい まだ残っとるぞ。 もう 食わんのか?!」
軍医「これは いかんな。 大食らいの村井が 残すようじゃ 助からんだろう。」
茂<仲よくしとった トペトロという子供が 様子を見にきてくれたんだ。>
茂「ありがとよ。 うまい…。」
回想終了
茂「トペトロは 毎日 バナナやパパイアを届けてくれて お陰で メキメキ回復したぞ。」
布美枝「ほんなら その子供とバナナが お父ちゃんの命の恩人ですね。」
茂「うん。 それに 俺には 自信があった。」
布美枝「自信?」
茂「絶対に生き抜くという自信だけは 残っとった。 それが バナナを食う力に なったのかもしれん。」
布美枝「絶対に生き抜く…。」
茂「ほれ 食え。 これでよければ また買ってきてやる。」
布美枝「…はい。」
<熟したバナナは ねっとりと甘く 南国の香りがしました>
玄関前
浦木「はあ 何で俺が 荷物持ちなんか…。」
はるこ「浦木さん ほら 早く。」
浦木「は~い。 ヘヘヘ!」
居間
2人「うわ~!」
布美枝「かに缶 さけ缶 鯨の大和煮 あ みかんの缶詰もある。」
茂「うまそうだなあ!」
はるこ「これ全部 パチンコ屋さんの景品です。」
茂「え? あんた まさか 勤め先の パチンコ屋から失敬してきたんじゃ…。」
浦木「レディーに向かって失礼な。 だが これだから 貧乏人は疑り深くて困るよ。」
茂「うるさいな。」