一週間後
水木家
仕事場
布美枝「お父ちゃん。」
茂「ん?」
布美枝「戌井さん所に お金 頂きに行ってきます。」
茂「ああ。」
布美枝「あら! きれいな絵! このお侍さん 錦之助みたい。 こっちの美人は 丘さとみ? お父ちゃん 美男美女も 描けるんですね?」
茂「何を言っとるんだ? その気になれば 何でも描けるぞ。」
布美枝「ほんなら 行ってきます。」
茂「おう。」
<茂は 戌井のところで 時代漫画を描き始めました。 カバーは 美男美女でも 中身は このとおりの 怪奇漫画です>
戌井家
居間
(タイプを打つ音)
早苗「恵美! 輪っか 赤ちゃんに ぶつけないように気をつけてよ。」
恵美「うん。」
早苗「お待たせして ごめんなさいね。 もう 戻ると思うんですけど。」
布美枝「はい。 奥さん 内職ですか?」
早苗「ああ。 これ 漫画のネーム。 セリフを打ってるんです。 写植に出すと高いから 私がタイプで打ったのを 貼り込んで 間に合わせてるの。」
布美枝「あ~。」
早苗「こういうとこで 節約しないと やっていけないのよ。 うちの人 売れない漫画ばっかり 作ってるから。 いけない。」
布美枝「申し訳ありません。」
早苗「嫌だ! 水木さんの事じゃありませんよ! まあ あれが 一番 売れなかったけど。」
布美枝「はあ…。」
早苗「私 漫画の事は よく分からないんです。 でも 水木さんの事は 応援してるんですよ。 うちの人 よく言ってるわ。 『あんなに いい漫画が どうして売れないんだろう』って。」
布美枝「(くしゃみ)」
早苗「寒い?」
布美枝「いいえ。」
早苗「暖房費の節約のために うち ストーブは 夜しか つけない事にしてるんです。」
布美枝「あら うちと同じ!」
早苗「あら ハハハ! ごめんなさい。 今 あったまるものを作るから。」
布美枝「すいません。」