玄関前
布美枝「きれいだねえ!」
藍子「うん。」
布美枝「ほら 藍子 桜だよ。 ほら きれい! ね!」
はるこ「布美枝さん。」
布美枝「あ…。 あら…。」
仕事部屋
はるこ「この間は みっともないとこ お見せして すいませんでした。 先生のご両親にも 誤解されてしまったみたいで…。」
茂「あ~ それは もう ええです。 誤解も解けたし。 それより 原稿 どうしました?」
はるこ「描き直して 『少女ガーデン』の編集部に 持っていきました。 あれから 徹夜 3日間しました。」
布美枝「3日も!」
はるこ「最後の勝負だと思って 必死で。 今の私に描ける 一番いい漫画に なったと思います。 けど… ダメでした。 採用されませんでした。」
茂「ほんなら…。」
はるこ「明日 私 田舎に帰ります。 私 最後の勝負にも 負けてしまったんです。 漫画は もう諦めます。 でも… 他に 何をしたらいいか 分かんないんです。 子供の頃から 漫画家になる事しか 考えてませんでしたから。 先の事は… まだ 全然。 結局 3年間 ムダにしただけかもしれません。 今の私 空っぽです。」
布美枝「そんな…! ずっと頑張っておられたのに。」
茂「頑張っとるのは みんな 同じだからなあ。 漫画家を目指す人間は みんな 頑張っとる。 けど プロになれるもんは わずかしか おらんし ずっと描き続けられるのは そのまた 一握り。 ほとんどの人は 夢 破れるんです。 世の中 思いどおりには ならんですよ。」
布美枝「お父ちゃん…。」
茂「けどね 空っぽという事はない。」
はるこ「え?」
茂「3年 描き続けとった 漫画家魂が残っとる。 あんたは それ ずっと持っとったらええですよ。」
はるこ「でも 私 漫画 諦めるんですよ。 漫画の事ばっか考えたって しかたないです。 気持ちが残ってたって つらいだけですから…。」
茂「う~ん。 この間 来とった うちのおやじは 芝居や小説が好きでね。 昔は 映画館も やっとったですよ。」
はるこ「映画館…?」
茂「おやじは 小説らしきもんも 昔から よう書いとったけん。 お陰で 俺は 子供の頃から いろんな物語を よう知っとった。 それが 今になって 漫画を描く役に立っとるわ。」