カフェー・タイム
花子「蓮様。 ごきげんよう。 お電話 ありがとう。」
蓮子「はなちゃん… この間は ごめんなさい。 龍一さんが連れていかれて あの日は すっかり取り乱していて。 はなちゃんが 密告なんかする訳ないのに…。 本当に ごめんなさい。」
花子「いいのよ。 私こそ 何にも力になれなくて ごめんなさい…。 あれから 龍一さんは?」
蓮子「差し入れを持って 会いに行ったけれど 会わせてもらえないの。」
花子「そう…。」
蓮子「お願い はなちゃん。 吉太郎さんに頼んで 龍一さんが どんな状況か 聞いてほしいの。 できれば これも渡してほしいの。 疑われるような物は 入ってないわ。 着替えと 彼の好きなランボーの詩集よ。 それから 私と富士子からの手紙。」
花子「手紙は 全て読まれてしまうわ。 蓮様の事だから きっと熱烈な恋文なんでしょう? 分かったわ。 兄やんに頼んでみる。」
蓮子「ありがとう。」
花子「こんなに思ってくれる 奥様がいるのに…。 (小声で)どうして 龍一さん そんな危険な活動に 加わってしまったのかしら?」
蓮子「でも 龍一さんは 間違った事はしていないわ。 あの人は 誰よりも 子どもたちの 将来の事を考えているわ。 だから 今の国策に我慢できないのよ。 はなちゃんも この間 ラジオで言ってたわよね。」
花子「『戦地の兵隊さんが 誉れの凱旋ができるよう おうちのお手伝いをして しっかり お勉強致しましょう』って。 まるで 『みんな 頑張って 強い兵隊になれ』と 言っているように聞こえたわ。」
花子「あのニュース原稿は…。」
蓮子「はなちゃんも… 誰かに 読まされているんでしょう? そうやって 戦争をしたくて たまらない人たちが 国民を扇動しているのよ。」
花子「蓮様 声が…。」
蓮子「私は 戦地へやるために 純平を 産んで育ててきたんじゃないわ。」
「ごちそうさん。」
かよ「ありがとうございました。」
かよ「はい。 おいしいコーヒーを入れましたよ。 お姉やんには サイダー。」
花子「ありがとう。 お客さん 帰っちゃったわね。」
蓮子「ごめんなさい かよさん…。」
かよ「いいえ どうぞ ごゆっくり。 誰もいなくなったから 大きな声で話しても 大丈夫ですよ。」