花子「蓮様。 さっきのような考えを 口にするのは 今は 慎んだ方がいいと思うわ。 蓮様まで捕まったら どうするの?」
蓮子「はなちゃんは 本当は どう思っているの?」
花子「えっ…。 ラジオのマイクの前で 日本軍が どこを攻撃したとか 占領したとか そんなニュースばかり読んで…。 ああいうニュースを 毎日毎日聞かされたら 純粋な子どもたちは たちまち感化されてしまうわ。 お国のために命をささげるのが 立派だと思ってしまう。」
花子「私だって 戦争のニュースばかり 伝えたくないわ。 でも… こういう時だからこそ 子どもたちの心を 少しでも明るくしたいの。 私の『ごきげんよう』の挨拶を 待ってくれる 子どもたちがいる限り 私は 語り手を続けるわ。」
蓮子「そんなのは 偽善よ。 優しい言葉で語りかけて 子どもたちを 恐ろしいところへ 導いているかもしれないのよ。」
花子「そんな…。 私一人が抵抗したところで 世の中の流れを止める事なんか できないわ。 大きな波が迫ってきているの。 その波に のまれるか 乗り越えられるかは 誰も分からない。 私たちの想像をはるかに超えた 大きい波なんですもの。 私も すごく恐ろしい…。 でも… その波に逆らったら 今の暮らしも 何もかも失ってしまう。 大切な家族さえ守れなくなるのよ。」
蓮子「やっぱり もう うちの家族とは 関わらない方がいいわ。 こんな事頼んだ私が間違ってた。 忘れてちょうだい。 お勘定。」
かよ「蓮子さん。」
花子「待って。 私は 蓮様が心配なの。 まっすぐで 危なっかしくて…。」
蓮子「はなちゃん… 心配ご無用よ。 私を誰だと思っているの? 華族の身分も 何もかも捨てて 駆け落ちした宮本蓮子よ。 私は 時代の波に平伏したりしない。 世の中が どこへ向かおうと 言いたい事を言う。 書きたい事を書くわ。 あなたのように ひきょうな生き方はしたくないの。」
花子「そう…。 分かったわ。 私たち… 生きる道が違ってしまったわね。 これまでの友情には感謝します。」
蓮子「ええ。 さようなら。」
花子「お元気で。」
<2人の道は もう交わる事はないのでしょうか。 ごきげんよう。 さようなら。>