孤児院
「はい!」
「ああ~!」
「早~い。」
『雪隠で饅頭』。
北澤「花子さん。」
「餅は餅屋」。
「わざわざ すみません。 迎えの人が来たので ミニーは 今日 カナダに帰ります。 お二人に お別れを言いたいそうです。 ミニー。」
ミニー『はな、ツカサ 紙芝居、とても楽しかったわ』
北澤『僕もとても楽しかったよ 花子と親指姫ができて』
ミニー『ありがとう さようなら』
北澤『さようなら、ミニー』
はな「Good bye.『元気で』
ミニー『また会いたい』
「ミニー。」
道中
北澤「年賀状 届きましたか?」
はな「あ… すいません。 あれ 読めなかったんです。 厳しい先輩に 墨で塗り潰されてしまって…。」
北澤「そうだったんですか。」
はな「『恭賀新年』のあと 何て書いてあったんですか?」
北澤「参ったな。 じゃあ 今 言います。」
はな「はい。」
北澤「『会えない時間が あなたへの思いを 育ててくれます』と書きました。 金沢に帰っていた時の 率直な気持ちです。 それで はっきり 自分の心に 気が付いてしまいました。 花子さん。 僕は あなたが好きです。 花子さんさえ よければ 近いうちに ご両親にも お目にかかって 結婚を前提にした おつきあいを お願いしたいと思っています。」
はな「け… 結婚? ちょっと お待ちになって下さい。」
北澤「もちろん 返事は 今すぐにとは言いません。」
はな「はあ…。」
北澤「やっと言えた。」
はな「あの…。 1つ 聞いてもいいですか?」
北澤「はい。」
はな「北澤さんは こんな私の どこを 好きになって下さったんですか?」
北澤「子どもが好きで 笑顔が 実に すてきなところです。 あなたの笑顔を見ていると ご両親に こよなく愛されて 温かい家庭に 育った人だという事が 伝わってくるんです。」
はな「はい。 本当に そうです。 けど…。 けど 北澤さんが 思ってるいらっしゃるような 家族とは 全然違うんです。」
北澤「どういう事ですか?」
はな「ごめんなさい。 私 嘘をつきました。 私の父は 貿易会社の 社長なんかじゃありません。 行商人です。 大きな荷物を担いで あちこち駈けずり回って 生糸や日用品を売っているんです。 私のうちは 小作の農家で 葉書を書いても 母は 字が読めません。 私の幼なじみに読んでもらって 返事も代筆してもらうんです。」
はな「妹の かよは 製糸工場の女工になりました。 今頃 苦労して頑張っているはずです。 私 そんな家族が恥ずかしくて 北澤さんに嘘をつきました。 けど そんな家族に支えられて 東京で 勉強させてもらっているんです。 大好きな家族なんです。 だから…。 本当に ごめんなさい!」
北澤「花子さん!」
はな「本当は はなです。 両親から付けてもらった名前は 花子じゃありません。 でも 花子って呼んでもらえて うれしかった。 さようなら。」
<はな 16歳の冬でした。 では また来週。 ごきげんよう。 さようなら。>