(ドアが開く音)
白鳥「何しに来たんですか? あなたは もう とっくに 降りたはずでしょう。」
蓮子「私 降りません。 絶対に。」
はな「蓮子さん…。」
蓮子「お稽古も 今日から ちゃんと参りますので よろしくお願い致します。」
醍醐「また そんな無責任な事 おっしゃって これ以上 私たちを振り回さないで下さい!」
蓮子「脚本 最後まで読みました。 率直に感動致しました。 シェークスピアが こんなに 面白かったなんて知らなかった。 あなた やっぱり 翻訳力だけは 大したものだわ。」
はな「蓮子さん…。」
茂木「やっと 本気になってくれましたね。」
ブラックバーン『それでは、期待していますよ』
安東家
庭
ふじ「吉太郎! 吉太郎!」
<とろこで ふじは こんなに慌てて どうしたのでしょう?>
居間
リン「ふじちゃん…。」
ふじ「吉太郎!」
吉太郎「おかあ どうしただ?」
ふじ「おまん 軍隊に入りたがってるって 本当け。」
周造「てっ!」
りん「今 地主さんとこで 聞いてきただよ。 事もあろうに 宴会に乗り込んで 軍隊長に直訴しただとう?」
もも「てっ! 兄やん 兵隊さんになるだけ。」
ふじ「もも やめろし!」
周造「キチ どういうこんだ。」
吉太郎「おじぃやんと おかあには 折を見て ちゃんと言おうと思ってただよ。 おら 兵隊になる。 ええ加減な気持ちじゃねえ。 いつか 軍隊に入って 立派に お国の役に立って みんなに楽さしてやりてえだ。」
リン「ほれと 同じ根うちの人も言ってだた…。 そう言って おらが止めるのも聞かんで 行っちまって… 戻ってこなんだ。 あんな思えすんのは おら一人で たくさんだ…。」
庭
リン「(泣き声)」
居間
周造「リンの亭主が戦死した時にゃあ 朝市は まだ 乳飲み子だったからな。」
吉太郎「朝市から聞いただ。 日清戦争で戦死しただって。 ほんでも おら お国のために死ねるじゃ本望だ! このまま ここで くすぶってちゃ 死んでると同じこんだ!」