翌朝
はな「かよ。 お姉やん 決めた。 もう二度と かよを工場に行かしたりはしねえ。 お姉やんも東京で仕事探すから 一緒に頑張ろう。」
かよ「お姉やん…。」
(ノックとドアが開く音)
かよ「てっ! これ 何でえ?」
はな「西洋のパンだよ。」
かよ「パン? 頂きます。 うめえなあ!」
(ノック)
茂木「醍醐さん。 入りますよ。」
2人「ごきげんよう。」
茂木「この お履き物 醍醐さんのじゃありませんね。」
安東家
居間
もも「『かよ無事。 安心せられたし。 修和女学校 茂木』。」
ふじ「とにかく 無事でよかったよ~!」
もも「ふんだけんど 何で お姉やんの学校にいるでえ。」
周造「そうさな。」
吉太郎「おらが迎えに行ってくる。」
周造「おまんがか?」
ふじ「おらに行かしてくりょう。 ここは 母親として こぴっとしねえとな。」
周造「ふじ おまん 汽車にも乗った事ねえじゃんけ。」
徳丸商店
徳丸「ほれ。 往復の汽車賃。 ほれ!」
ふじ「ありがとうごぜえやす! 必ずお返しします!」
徳丸「…で 製糸工場の前金も 返さんきゃならんずら。」
ふじ「へっ?」
徳丸「わしが立て替えてやるじゃん。」
ふじ「てっ… ほんなあ…。」
徳丸「子を思う気持ちは わしにも よく分かる。」
ふじ「本当に 恩に着ます。」
徳丸「ふんだけんど おまんの亭主は 一体 どうなってるだ。 行商に行ったっきり もう3年も 帰っちゃねえちゅうじゃん。」
ふじ「いいえ。 2年と10か月です!」
徳丸「ふじちゃんも苦労するじゃん。 ほんな薄情な亭主とは 別れた方がいいら。 何なら わしが面倒見てやっても…。 …いねえじゃん。」